「性的搾取はなくせます」 NPO法人ぱっぷす理事長・金尻カズナさんに聞く

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「性的搾取はなくせます」 NPO法人ぱっぷす理事長・金尻カズナさんに聞く

 性的な映像・画像または性行為、あるいはその両方に関しての同意が侵害され、本人のコントロールが奪われる「性的搾取」の被害が後を絶たない。スマートフォンで気軽に動画や写真を撮ることができる今、意図せずとも性的搾取の加害者にも、被害者にもなる危険が身近にある。
 NPO法人ぱっぷす(東京都内・住所非公開)は2017年から、性的搾取の被害者に寄り添い、本人が望む解決の実現に取り組んでいる。活動内容は、相談支援、本人が意図せずにインターネット上に拡散した性的動画の削除要請、夜間の繁華街の路上での若い女性たちへの声かけと情報提供、一時的な居場所・シェルターの運営、法改正や制度改善の提言など、多岐にわたる。26人の支援スタッフには、カトリックの修道女二人も加わっている。ぱっぷす理事長の金尻カズナさん(45)に、性的搾取の現状や現行法の問題点、これまでの活動の実り、修道女らとの関わりについて話を聞いた。

 デジタル時代の性的搾取

 ぱっぷすには毎日、AV(アダルトビデオ)などの性的な動画出演にまつわる相談をはじめ、さまざまな性的搾取の被害者からの相談が寄せられている。恋愛感情につけ込んで、ホストクラブのホストから高額な飲食代を請求され、その返済のために女性が路上売春に追い込まれるようなケースもある。
 近年は特に「金銭セクストーション」と呼ばれる、性的画像を使った脅迫と金銭要求に関する相談が増えており、相談者の多くは男性だという。だましの手口は、例えばこうだ。(注:複数事例を参考にした再構成)
 学校で英語を習い始めた中学生男子。外国人と英語でコミュニケーションしたくなり、スマホの「言語交換アプリ」で相手を探し、海外の「女性と思われる人」とメッセージのやりとりが始まる。ある日「ビデオ通話しよう」と誘われ、応じると「君、かっこいいから服を脱いで」と言われる。相手から性的な写真が送られてくる、「君の体も見たい」など要求はエスカレート。求めに応じるうちに、相手にビデオ通話を録画されてしまい、「この動画をインスタグラムのフォロワーにばらまかれたくなかったら、ビットコインで20万円払え」などと脅されてしまうのだ。
 金尻さんによれば、ターゲットが男性の場合は、東南アジアやアフリカなどの拠点から、インスタグラムのダイレクトメッセージ、ゲームアプリのチャット機能などの手段で「わな」を仕掛けてくることも多いという。AIの精度が上がっており、流ちょうな日本語でコミュニケーションしてくる。
 「韓国や台湾でも同様の被害が増えているようですが、規制を全くしていないのが日本です。対策すら打っていません」
 ビデオ通話で性的な行為をしてほしいという男性からの要求に応じてしまう女性たちもいる。「オンライン上でも交際が成り立つ時代です。毎日コミュニケーションする仲になると、安心感や信頼感が生まれて、相手を知りたい気持ちが湧いてきます。『なんで送らないの?俺のこと嫌いなの?』と迫られてしまい、その時に自尊感情が低下していたりすると、対外評価を気にして相手に従わざるを得なくなることがあります」
 被害者は10代前半から社会人までに及んでいるという。

 性的画像・動画削除にAI技術を活用

 ぱっぷすの事務所では金尻さんたちが「執念」で作り上げた、画像削除要請システムが24時間、365日稼働している。
 性的な画像がインターネット上に拡散されてしまった場合、削除要請は、被害者やその家族がしなければならない。ぱっぷすでは被害者本人から委託を受けて、画像を探し出し、配信元に削除要請をしている。
 このシステムにはAI技術が活用されているが、AI自身が「学習」し、悪い方向に「暴走」する心配はないのだろうか。
 「このシステムは相談者の『顔を探し出す』ことに特化した学習を済ませているので、それ以上学習することはありません」
 システムが性的画像サイトを巡回し、1日当たり80万件ほどの対象者の顔を探し出す。画像が拡散する前に、積極的に見つけ出すのだという。2024年度は、削除要請件数の62%を全削除することができた。今後も削除を加速させる予定だ。

 性的搾取は人権侵害

 金尻さんが活動を始めたきっかけは2004年、たまたま目にしたテレビニュースだった。AVに出演した女性が、制作会社のスタッフらから性的暴行を受け、重症を負った事件。後に「バッキー事件」と呼ばれるこの事件に、金尻さんは衝撃を受ける。
 裁判傍聴などを通じ、この事件の「人権侵害性」に気付いたという。傍聴席で見た加害者らは、普段街で見かけるような「普通の人たち」に見えた。「(加害者は)たまたま(女性に対する差別意識や蔑視のある)支配的な人に出会ってどんどん認知がゆがみ、(性的暴行を)断れない状況をつくったのだと思いました」
 そして被害者には、被害を訴える相談窓口がないことを知った。AV被害問題に関心を持つようになると「AV被害の延長線上に、買春や性的搾取の問題が見えてきました」
 金尻さんが、実際にAV被害者の相談支援に関わるようになったのは2012年から。ある女性から「AVに出演させられそうです。助けてください」というメールを受け取ったことがきっかけだった。初めのうちは、被害者を弁護士につなぐことを試みたが、実際にはなかなかつながらなかったという。被害者保護のための相談窓口や施設などの社会資源がなく、民事的にも「自己責任」にされていた。
 「警察に訴えても『民事不介入』の考え方から、『事件化できない。契約書があるでしょう』と言われました。警察官に『(契約書に書かれているように)あと3回出れば(出演すれば)いいじゃないか』と言われたこともありました」

 法律は景色を変える

 2017年からは「ぱっぷす」として相談支援活動を続けながら、金尻さんは「社会を変えていく」ことにも力を注いできた。人権擁護団体と連携して、国会議員のヒアリングに協力したり、国会質疑では被害者の声を代弁し、被害の実情や、支援のための法整備を訴えたりしてきた。
 これらが実り、2022年6月に「AV出演被害防止・救済法」(正式名称:性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律)が議員立法で成立。
 この法律では、AVの出演契約をしてしまった後でも、1年間は無条件で契約を解除できる。撮影された映像の公表を止めることも請求できるようになった。
 「『継続は力なんだ』と思いました。多くの被害者が泣き寝入りしていましたし、自死した人が何人もいます。深刻な人権侵害なんです。法律があるのとないのでは、見える景色が全然違います。これまで『自己責任』とされてきた方たちが、『これは性被害なんだ』と言えるようになります」
 ぱっぷすは今年4月、売春防止法の課題を検討する、国の「売買春に係る規制の在り方検討会」にヒアリング資料を提出。資料では当面の優先課題を「買春勧誘行為の処罰化」だとしている。現在の売春防止法では、性を売る側への罰則規定はあるが、買う側にはないという不平等があるからだ。
 金尻さんは「(買春は)現状では罰則がなく、犯罪化できないので野放しになっているんです。買春が犯罪だと定義されれば、処罰の対象になり、被害者は救済される」と考えている。

 女子修道会との連携

 ぱっぷすが2023年に開設したシェルター「ひつじハウス」では、女子修道会の二人の修道女が、困窮した若い女性たちに献身的に奉仕している。
 その会は元々、困窮した女性のための一時宿泊所として、修道院の一角を提供していた。相談支援活動の中で同会と出会った金尻さんは、若者向けのシェルターを開きたいという会の意向を知る。協力関係を結び、修道院内の空き施設を改装してひつじハウスを開設した。
 「『今日泊まる場所がない』という人に提供しています。ついのすみかではないので、最大2週間をめどに、そこから行政につないだり、他の社会資源につなげたりする間のサービスです」
 金尻さんは、修道女らの「愛は強いです」と話す。「受容の心を持った、献身的な関わりに助けられています」。多くの女性たちは、また泊まりたい、次の場所に行きたくないという気持ちになるという。
 「これまで虐待を受けたり、(周りの大人たちに)食い物にされたりしてきた人たちは、シスターたちの愛に触れて、安心と安全はこういうものなんだ、と知るんです」
 ぱっぷすとカトリック教会とのつながりは他にもある。カリタス・ジャパンからは2025年9月、援助金の交付を受けている。援助金は奨学金として使われ、援助を受けた女性は性の売買から抜け出し、手に職をつけることができた。
 インタビューの最後、金尻さんはこう展望を述べた。
 「(性的搾取は)根深い問題だからこそ、やりがいがあります。われわれで終わらせてやろう、という気持ちです。性的搾取はなくせます。明日から、誰も『セックス』を買わなければ、性的搾取はすぐ終わるんです」

※シェルターの場所は非公開のため、本文中の修道会・修道女の実名は伏せてあります。

ぱっぷす理事長の金尻カズナさん。終始笑顔でインタビューに答えてくれた
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