第50回シグニス映画賞授賞式 『ふつうの子ども』呉美保(オ・ミポ)監督が受賞
カトリックの精神に合致する普遍的テーマを扱った優秀な映画作品の監督に贈られる日本カトリック映画賞(主催 SIGNIS JAPAN〈シグニスジャパン/カトリックメディア協議会〉)。その50回目となる授賞式と受賞作品の上映会が7月5日、暁星(ぎょうせい)学園講堂(東京・千代田区)で行われ、約800人が参加した。
受賞作品は呉美保(オ・ミポ)監督の『ふつうの子ども』(受賞決定についての記事はこちら)。主人公は嶋田鉄太(てった)さんが演じる、小学校4年生の上田唯士(ゆいし)。同じクラスで、環境問題に強い関心を持つ三宅心愛(ここあ)、学校では乱暴なところもある橋本陽斗(はると)と共に、環境問題を解決するための具体的な行動を起こす。しかし事態は予想しない方向に展開。3人の行動が「問題」となり、親たちが学校に呼び出される事態に発展するストーリーだ。
10歳の子どもに戻る

シグニスジャパン顧問司祭の晴佐久(はれさく)昌英神父(東京教区)は授賞理由を説明する前に、会場にこう語りかけた。
「同じ映画を見て、同じ思いになる、こういう体験こそがカトリック教会が一番望んでいることです。この集まり自体が、神様のお望みの集まりだと信じています」
晴佐久神父はこう続ける。「ここにいる全員が10歳を体験しているんですよ。そして大人になりました。さて、その大人はどんな大人なのか。その大人がつくった世界は、どうなっているのか。一度10歳に戻るって大事なんじゃないかと思わせる映画です」
子どもは戦争を起こさず、地球温暖化にも責任がなく、貧富の差をつくることもしない。しかし大人になるにつれて、徐々に何かを隠したり、ごまかしたり、うそをついたりするようになる。
晴佐久神父は「もしかしたら10歳の方が『格上』なのかもしれません。私たちはどこで間違えて大人になったのか、もう一度ちゃんとしゃがんで10歳の目線で寄り添って、子どもの魅力をきちんと描いたり、共有したりすることが、今の時代にとても力のあることなのではないかと感じさせる映画でした」。そして呉監督と嶋田さんに「僕らを10歳に連れ戻してくれてありがとう」と話した。
賞状と記念品を受け取った呉監督は、50回目という節目に本作品が選ばれたことに感謝を示した。日本映画の現状として、子どもが主役という企画は、なかなか資金が集まらないと話し、こう思いを述べた。
「そんな中で、共感してくださる出資者の方やプロデューサー、スタッフの皆が共感し、集まって成立した映画です。小さいけど濃い映画が出来上がりました。この作品を見つけてもらい、受け入れてくれたことが、人生の糧になる気がします」
シグニスジャパン顧問の酒井俊弘補佐司教(大阪高松教区)は、キリスト教とは直接関係がない本作品が授賞した理由を、教皇レオ14世の言葉を引用して説明した。教皇は昨年11月、映画関係者から好きな映画は何かと問われ、『素晴らしき哉(かな)、人生!』、『サウンド・オブ・ミュージック』、『ライフ・イズ・ビューティフル』、『普通の人々』の4作品を挙げた。

酒井司教は、教皇レオ14世が「映画の最も貴重な貢献の一つは、観客が自らの人生について考え、自らの経験の複雑さを新たな視点で見つめ直し、まるで初めて見るかのように世界を見つめる手助けをすることです」と話したことに触れ、「これから上映される映画を見て、希望の光、人間の美しさを見いだしてください」と参加者に呼びかけた。
好きなことを「好きだ」と言う
作品の上映後、呉監督と晴佐久神父の対談が行われ、撮影の裏話や作品への思いが語られた。
本作品では、10歳の子どもたちが自分の好きなことに挑戦し、失敗もする姿がありのままに描かれている。子どもたちと関わりのある大人たちも、実はそれぞれに悩みや弱さを抱えていることも伝わってくる。
晴佐久神父は、自身も同じ年頃に親が学校に呼び出されたり、映画さながらに段ボール箱をまとって街じゅうを回ったりしたエピソードを披露。親に木枠とキャスターまで付けてもらったのだという。「10代の頃の自由な感じを忘れずに生きていきたいと思いながら、そうもできない。この映画に勇気づけられました」
元々子どもを描く映画が好きだった呉監督は、大人だけ、子どもだけでなく、両方に楽しんでもらえる映画を作りたいと思っていたと話す。子育て中の呉監督は、実際「子どもが生まれたから立派な大人になれるのではなく、常に未熟な自分と向き合う毎日です。大人だってどれだけ成熟しているのか。共感と安心を持ってほしかった」と、作品に込めた思いを語った。
対談の途中で嶋田さんも加わり、真夏の撮影でとても暑かったこと、「字」が嫌いなので図書館での撮影で体調を崩したが、母親が握ったおにぎりを食べて調子を持ち直したことなどを紹介した。
晴佐久神父が、作品の最後の、子どもたちの「問題」行動について、保護者を交え、校内で話し合うシーンで、唯士が「ごめんなさい」と言う姿が「泣いているように見えた」と話すと、嶋田さんは「(実際は)泣いてないんです」と打ち明けた。そしてある俳優に「(演技で)泣けないって相談したことがあるんです。(その俳優から)『泣かなくても、見ている人を泣かせられる演技をすればいい』」と言われ、「それでいこう」と思ったと話すと、会場から大きな拍手が湧いた。
本作品のキャッチコピーは「いつだって、世界は『好き』でまわってる」。呉監督は最後に「好きなことを『好きだ』と言えることが、全てを回す原動力になる」と話した。
子どもたちの姿が印象的
毎年のように授賞式に参加している野村祐佳里さん(64/東京・高円寺教会)は、「(作品に出演した)子どもが元気で、久々に笑いました」と感想を話した。
野村さんと一緒に参加した夫の金水容(キム・スヨン)さん(77/同教会)は、受賞した呉監督が自分と同じ在日韓国人であるため、どのような視点で作品を作ったのかに興味を持って参加したと話す。「来てみて本当に良かったと思います。在日だといろいろな歴史があるので、負のことを取り上げたタッチの映画も多いですが、今日は本当に心が洗われました。子どもの目線で作品を作った監督さんに『幸あれ』と思います。鉄太くんがなかなかの役者だとも思いました。素晴らしい映画でした」
中西眞喜(なおき)さん(32/東京・麴町教会)は、「(事前に)ドキュメンタリー風だと聞いていましたが、本格的な映画だと思いました。子どもたちの(困難に出合った時に)『なんとかしなきゃ』という純粋な気持ちが出ていました」と、登場人物たちの姿が印象に残ったと話した。

