書籍『ヒトラーを怖れなかったキリスト者たち』 著者・山縣(やまがた)光晶さんに聞く
ナチスの独裁体制に抵抗し、迫害を受けたドイツ、オーストリアのキリスト者18人の証しを記した『ヒトラーを怖れなかったキリスト者たち ナチスへの抵抗の足跡を旅する』(彩流社・3080円〈税込〉)が、今年5月に出版された。著者は、保土ヶ谷教会(横浜市)信徒の山縣光晶さん(76)。山縣さんが実際に現地を巡り、史実を確かめながらまとめ上げた1冊だ。
山縣さんに執筆のきっかけや気付き、人間の尊厳を守ることへの思いなどを聞いた。

祈りの中での出会い
ナチスを公然と批判したドイツ人司祭、コルビニアン・アイグナーの生涯を紹介する本書の第1章。そこには、ナチス体制の下で迫害を受けたカトリック司祭の数について、分かっているだけでも、ドイツ・オーストリアの聖職者の約4割に当たる8021人、うち4189人は強制収容所送りだったと記されている。実に迫害を受けたカトリックの司祭の二人に一人は、強制収容所に送られていたのだ。
山縣さんが、ナチスに抵抗したカトリックの司教や司祭、修道士とプロテスタントの牧師、信徒らの存在を知ったのは、ふとしたことがきっかけだったという。
ドイツへの留学経験もある山縣さんは7年前、ドイツを旅した際、ベネディクト会の大修道院、マリア・ラーハ修道院に宿泊した。以来、同修道院が毎日オンラインで配信している「今日の祈り」を使って祈ることを習慣にしていた。
この祈りには、毎日の聖書のみことばや聖歌、祈りの他に、その日にちなんだ聖人や福者、歴史的な偉人などの名前と事績も記されている。
「(ある日)見たことのないキリスト者の名前が出てきたんです」
その人の名は、ルーペルト・マイヤー。イエズス会司祭で、「これは私の良心の義務である」とナチスを公然と批判したことで、強制収容所に送られ、その後アルプス山中に幽閉された。米軍に解放され、戦後復興に奔走していたが、説教中に病に倒れ、1945年11月に帰天した。87年に教皇ヨハネ・パウロ2世により列福されている(本書5章で紹介)。
「今日の祈り」にはマイヤーに続き、ニコラス・グロース、カール・ランペルトなどナチスに抵抗したキリスト者たちが次々に登場した。山縣さんは「こういう素晴らしい人たちのことを知って、(日本の人々にも)知らせたいと思いました。今の日本の社会に知ってもらって、(一緒に平和を)考えていく必要があると思ったんです」
負の歴史に向き合う人々の姿
山縣さんは、本書執筆のためにドイツの司教協議会が委託して編纂された、20世紀の殉教者目録など、現地の資料に当たるだけではなく、2024年10月からひと月半かけてドイツ、オーストリアに殉教者や果敢に抵抗したキリスト者たちの足跡を訪ねた。殉教者たちは教会や強制収容所の追悼記念館などで、その生き方が記念され、現地の人々に思いが受け継がれていた。
「そういう施設を、高校生や大学生がたくさん見学に来ているんです。学校でも授業で教えています。オーストリアの強制収容所の記念館では、セミナールームで(青年たちが)ディスカッションをしているのを目にして感動しました」
その旅は、人々が負の歴史にもきちんと向き合い、若い人にも伝えていることを、祈りながら確かめる「巡礼の旅」となった。
18人の殉教者たちは、なぜナチスに抵抗できたのか。その理由を山縣さんは今、こう感じている。
「ナチスの、特に人種差別や優生思想が、キリスト教の『隣人愛』からすると『おかしい』と思ったんだと考えています。ナチスが権力を握る前から、警告を発していた人もいました。独裁体制での人間の尊厳を踏みにじる蛮行に対する怒りがあって、暴力ではなく、キリストの教えによって対抗したのだと思います」
山縣さんは4年前に病気で手術を受け、今年で術後5年目に入る。「手術をして、(神に)命を与えていただいたことはありがたかったです。改めて頂いた命を、どうやって『平和の道具』として生かしていくか」を考えているという。
そして読んだ人に何が一番伝わってほしいか、という記者の問いにこう答えた。
「人間の尊厳を踏みにじるような、価値を否定するような動きに対しては、きちんと物を申していかなければ、という勇気を私たちは持たなければならないと思います」
本書の最終章に紹介されている農民、フランツ・イエガーシュテッターは兵役拒否を貫き、処刑された。21世紀に入り、福者の称号を受けたイエガーシュテッターを記念するリンツのマリア大聖堂には、本人が残した次の言葉が刻まれている。
「私たちキリスト者はキリストに倣わなくていいのでしょうか」

