地域に開かれた教会に 「涙活」イベントも 芦屋教会
芦屋教会(兵庫県芦屋市)では、教会が地域の人々に開かれたものとなるよう、さまざまな取り組みが行われている。その根底にあるのは、2014年から主任を務める川邨裕明神父(大阪高松教区)が阪神淡路大震災で得た「何かが起きた時のために、地域との日頃の付き合いが大事」だという思いだ。川邨神父にこれまでの活動について話を聞き、同教会で今月、「泣(7)く(9)日」(7月9日)に開かれた、声優の演技と音響効果で物語を表現するボイスドラマ上映会を取材した。
「なくなっては困る」と言われる教会に
川邨神父は神学校受験の翌日に阪神淡路大震災を経験し、司祭になる決意を固めたのだという。大震災で甚大な被害を受けた神戸市長田区で、鷹取教会(現・たかとり教会)を拠点に救援活動した神田裕神父(大阪高松教区)の言葉に影響を受け、「何かが起きた時のために、地域との日頃の付き合いが大事」だという思いを抱くようになった。
「(神田神父は)教会は、震災が起こるまで近所にどういう人が住んでいるか知らなかった。(被災者を)どう助けていいか分からない、地域で孤立している教会だったと言いました。(教会を拠点に)ボランティアの人たちが活動していたら、信徒から『いつになったら彼らは帰るのですか』と言われたとも聞いています」
また川邨神父は、かつて司牧を担当していた教会のうちの一つが閉鎖することになった時のことをこう振り返る。一人の宣教師が会議の場で「教会を閉じることを地域の人に告知したのか」と質問した。掲示板にポスターは張ったが、地域の人々に直接会って伝えることをしていなかった。
「閉じたところで地域からも何もない。あったのは業者から『その土地使わせてください』という問い合わせだけでした。地域に何の関わりもなく、何も返していない。そういう教会はつぶれていくのではないかと思いました。将来のことは分からないけれども、少なくとも地域と関係を持ち、何かの役割を果たしていくことで、(教会がその土地から)なくなっては困ると言われるものをつくっていかなければならないと、ずっと問題意識を持っていました」
人が人を呼ぶ
その後川邨神父は、大阪・岸和田地区の司牧担当になる。教会の近くの団地には、一人暮らしの高齢者が多かった。最初に取り組んだのは「歌声クラブ」の立ち上げ。信徒の「歌声喫茶を始めたい」という言葉から始まったこの活動は、平日、団地に住む高齢者らを教会に招き、共通の歌集を手に一緒に歌い、お茶やお菓子を共にした。年に2回ほど、地域に呼びかけてコンサートも開いた。「東日本大震災後は、いわき(福島県)に行ってコンサートしたり、仮設訪問をして一緒に歌ったりもしました」
2014年からは芦屋教会の主任となり、さらにさまざまな取り組みを始める。
「地域の人々と一緒に生きていかなければならない」という思いから、近隣のプロテスタント教会と「芦屋キリスト教協議会」を立ち上げた。復活祭前の「プレ・イースター・フェスティバル」や「平和の祈り」などの集いを共にし、今年で10周年。交わりが定着してきていると感じている。
芦屋は文化活動の盛んな地域だと感じた川邨神父は、ここでも「歌声クラブ」を始めた。建て直された信徒会館には80人収容のホールもある。「そこを開放してもらって、地区の役員を中心に、世話係を決めて始めました。チラシやポスターを作りましたが、最初は全然人が来なかったんです」
コロナ禍後、信徒の紹介でプロのテノール歌手と知り合いになり、歌の指導をしてもらえることに。評判が広がり、人が人を呼んで現在は約60人。信徒が2割ほど、多くは地域住民だ。「月1回、お菓子代100円でやっています。気軽に地域の人が来られる場ができて良かったです。教会を身近に感じてもらえれば、それだけで大成功」。2年前からは教会で発表会も開き、今年6月の発表会では能登半島支援のための募金も呼びかけた。
この他にも、コンサートや能登半島の被災者支援のための落語会などを開いている。そして確定申告の時期には、教会の隣の芦屋税務署で働く臨時職員の休憩所として、信徒会館ホールの貸し出しもしているのだという。
多彩な人々が集う

「涙活」とは、意識的に泣くことでストレス解消を図る活動を指す。同教会の涙活動画作品は、YouTubeでの公開のみのものを含め今回で6作品目となり、教会での上映会は4回目。
ボイスドラマの脚本は、地元在住の小説家・椹野道流さんの『最後の晩ごはん 聖なる夜のロールキャベツ』が原案。作品はフィクションだが、舞台である飲食店「ばんめし屋」は芦屋教会の隣にある、という設定になっている。店を訪れた少女の「亡き父に会いたい」という願いを、店員たちが「かなえる」ストーリーだ。川邨神父は小説「最後の晩ごはん」シリーズを全巻読み、プロデューサーとしてさまざまなたまものを持つ人と出会い、出会いが出会いを呼んで、制作スタッフや声の出演者らが集まった。
20人余りが参加し、ボイスドラマを聞きながら、信徒会館ホールの壁に映し出される、登場人物をネコに見立てて描かれた各場面のイラストを鑑賞した。小説には少女にとって大切な、父との思い出の味である「ぐちゃぐちゃロールキャベツ」が登場する。上映後、小説に掲載されているレシピで、信徒のボランティアが調理したロールキャベツも提供された。

これまでの涙活作品の全ての監督を務めた湯浅一裕さん(64)は、1年かけて今回の作品を作り上げたと話す。テーマ曲の作詞・作曲も手がけ「(作品を読み込んで)物語がよみがえるような詞と、心に染みるような曲を書きました」。
ばんめし屋に通う少女、西原カンナ役で声の出演をした中学3年生の石橋咲陽さんは、8歳から俳優として芝居に出演してきた。今回初めて、声だけの作品に挑戦。小説を読み、自分が経験したことのない環境に置かれた「カンナの気持ちや状況をイメージしたら、気持ちが乗りました。今日初めて完成版を見て、かわいい絵と音と、皆さんのせりふが重なることで、平面だったものが立体的になっていると思いました」と話した。
脚本を担当した倉地淑美さんは「原作をできるだけ壊さないように、キャラクターの魅力を伝えようと努めました」。
サプライズゲストとして椹野さんも来場。同小説はこれまでにドラマやアニメにもなっているが、本作品のために作られた主題歌やネコのイラストの演出など、これまでとは違う形で小説の個性が引き出されたことへの感謝を述べた。
イベントに参加した伊藤浩子さん(63/宝塚教会〈兵庫県〉)は、3回目の参加。川邨神父について「人と人とをつなげるのが得意。人脈で、関わりを大事にする。だからこういうことが実現できるんだと思います」。そして「声だけのお芝居なのにあんなに臨場感が出ることに驚きました。(出演者の)声に引きつけられました。主題歌の声とストーリー全部をまとめた歌詞も素晴らしかったです」と話した。
崔宏基さん(49/今市教会〈大阪市〉)は、「教会に、信徒以外の方を中心に集まるのはいいことだと思います。信徒の中にはこのようなことに抵抗がある方がいるとも聞いていますが、2000年前の(初代教会の)原点に戻れば、みんなで集まること自体に意味があるわけですから、イベントの中心にボランティアとして、信徒が市民の文化活動を支えることがもっとあっていいと思います」
ボランティアとしてロールキャベツを作ったのは樽本孝子さん(80/芦屋教会)。川邨神父からの頼み事は「よくあるんです」。本のレシピ通りに作ったが、見た目は「ぐちゃぐちゃ」にはできなかった。「ぐちゃぐちゃだと中身がどこかに行ってしまいますものね」
ボイスドラマ『最後の晩ごはん』は、こちらから視聴することができる。



