キリシタンゆかりの長崎で開催 日本カトリック神学会学術大会
日本の神学研究者らが集う「日本カトリック神学会」(理事長・竹田文彦〈清泉女子大学教授〉、以下・神学会)は9月7日と8日、長崎純心大学(長崎市)を中心に第38回学術大会を開催した。
総合テーマは「キリシタン時代の神学」。神学会会員のみでの研究発表のほか、大会前日の6日から8日にかけて同学会主催の公開講演会も開かれ、長崎の信仰やキリシタンについて、さまざまな角度からの考察が紹介された。講演会には3日間を通じ、信徒ら延べ450人が来場した。
15テーマの研究発表

7日に長崎純心大学で行われた研究発表は3会場に分かれ、15人の研究者たちが研究成果を分かち合った。
第1会場ではキリシタンに関連するテーマが多く取り上げられた。若手研究者の一人、上智大学大学院・前期博士課程の松井咲環さんは、島原半島のキリシタン信徒組織の信仰実践について発表。1587年の伴天連(ばてれん)追放令以降、日本の教会は司祭不在になり、迫害も起きたが、そのような中でも信徒たちは多くの信心業を実践していたこと、信徒組織による聖体やゆるしの「秘跡」にあずかることが促進されたと説明した。
島由季さん(大浦天主堂キリシタン博物館・学芸員)は、聖イグナツィオ・デ・ロヨラ(イエズス会)の列聖を願う祈りを、潜伏キリシタンたちが口伝で継承するうちに「イナッショ(注:「イグナツィオ」が語源とされる)の祈り(オラショ)」となったこと、ロヨラ崇敬により、ロヨラに見立てた「イナッショ像」が作られたことなどを紹介した。
平林冬樹神父(イエズス会)は、殉教者たちの「生きた証し」、いわば「いのちのささげ物」が、現代を生きる人々に信仰を伝えていると話した。
研究から見る長崎の信仰
6日は浦上教会で片山はるひさん(ノートルダム・ド・ヴィ会員/上智大学教授)が永井隆博士と緑夫妻について、7日は中町教会で川村信三神父(イエズス会/上智大学教授)が潜伏キリシタンの信仰をテーマに講演した。続く8日は長崎歴史文化博物館ホールで、「信仰の伝統を生きること」をテーマに、4人の研究者たちが各自の研究成果を紹介。さまざまな視点から、キリシタン時代から長崎で受け継がれてきた信仰の力、今日にも通じる価値や意味を見いだした。
阿部仲麻呂神父(サレジオ修道会/日本カトリック神学院教授)は、今年5月に教皇レオ14世が発表した回勅『人間の偉大さ AIの時代における人格の擁護』に触れながら、「AI(人工知能)時代の人間性」をテーマに話した。
AIは人間の能力を拡張するが「人間の心、痛み、祈り、ゆるし、希望を、決して体を用いて経験することはできない」と阿部神父は述べ、長崎の「殉教者たちの証し」「原爆の悲劇」「(原爆による破壊からの)復活の歩み」という三つの積み重なりに、「AI時代に決して忘れてはならない『真実の人間性』」を見ることができると説明。人間には限界があるからこそ、他者と生きることができると話した。
そして「祝福」とは、「神の子」として幸せになってほしいと祈りながら相手を見つめることだとし、一人一人の「家族や友人の弱さを受け止める」「孤独な人に声をかける」「AIを使う時、人間の尊厳を忘れない」ことなどへの取り組みによって、「祝福にもとづく社会刷新」が実現できると述べた。
日本二十六聖人記念館館長のデ・ルカ・レンゾ神父(イエズス会)はキリシタン時代の宣教師たちの書簡から、当時の信徒たちの信仰生活を読み解いた。教会に司祭が足りない、あるいはいなくても、信徒たちが中心となり、活発な信仰生活が営まれていたことが数多く記されていることを紹介した。
長崎純心大学准教授の金成根さんは、日本では長崎や豊後(現在の大分)などに、中国はマカオに設立された信徒による慈善団体「ミゼリコルディア(慈悲の業)」の特徴を、史料を基に比較した。修道院や病院などの主要施設や、貧しい人、親のいない子どもや病者の世話などの「慈悲の業」の内容は共通している。金さんは両者の違いとして、中国では場所がマカオに限定されていたこと、また組織について、マカオはポルトガル人中心、長崎は日本人中心で構成されていたという違いがあることを説明した。
坂本久美子修道女(純心聖母会/長崎純心大学学長)は、「逆らいのしるし」をキーワードに、長崎の信仰について考察。長崎の信徒たちが、迫害と原爆という「悪」に対する「逆らいのしるし」として、キリストに希望を置き、ゆるしと祈りで報復の連鎖を断ち切る営みを続けてきたことについて述べた。
長崎の信仰の伝統とともに
神学会理事長の竹田さんは、大会をこう振り返った。
「今回の学術大会は、単なる学術的な集まりにとどまらず、場所を移しながら、公開講演などを通して長崎の信者・市民の皆様と長崎の地に刻まれた信仰の伝統について共に考え、それを私たちがどのように継承していくべきかを考える上で大変、重要なものとなったと思います。学術大会の開催と成功のために協力してくださった多くの皆様に心から感謝する次第です」
長崎市在住の信徒の女性(60代)は、人生を振り返ると、つらく、苦しいことも多かったが、3日間の講演を聞いて「神様の働きは目には見えないし、直接聞くことはできない。でも、人や出来事を通して(自分に)語られている」ことに気付かされたと言う。そして迫害や原爆の苦しみを背負いながらも、今日まで受け継がれた長崎の信仰の在り方を再確認したとも話した。
来年の学術大会は9月、大阪で開催予定。

