人権問題として死刑制度を考える 麴町教会でシンポジウム
法学者、ノンフィクション作家、事件被害者遺族、元刑務官、学生、宗教者らがそれぞれの経験から現在の日本の死刑制度についての思いを述べ、共に考えるシンポジウムが9月5日、東京・千代田区の麴町教会ヨセフホールで開かれた。この問題に関心のある市民ら180人余りが参加した。
日本では今年8月21日、1年2カ月ぶりに死刑が執行された。日本カトリックいのち・平和・人権委員会(委員長=森山信三司教)は同月26日、内閣総理大臣と法務大臣宛に抗議声明を発表している。(→関連記事)
「死刑は根本的に間違った解決方法」
現在、世界では多くの国々が死刑制度を廃止、あるいは死刑執行停止により事実上廃止している。日本では1882(明治15)年に死刑執行方法を「絞首刑」と定めた旧刑法が成立し、現行の刑法にも引き継がれている。司会の島薗進さん(東京大学名誉教授、大正大学客員教授)は開会に先立ち、第2次世界大戦を経て、世界の「人権についての考え方が大きく変わってきた中で、(日本の)死刑制度はこのままでいいのか」が問われている、と述べた。
基調講演には、井田良さん(刑法学者、中央大学名誉教授)と堀川惠子さん(ノンフィクション作家)が登壇した。
井田さんは法的観点から、日本の死刑制度の問題点を解説した。
問題点の一つが、死刑確定から執行までの時間が長いこと。井田さんはその理由を、ほんの少しでもえん罪の可能性が残っている者は執行を先送りにするため、つまり「誤った死刑執行を避ける」ためではないかと考えている。
また「刑罰制度」は、家庭や学校で社会生活における「規範意識」が形成されなかった場合に、事件を起こした当事者に「非難のメッセージ」を伝えることでルールを守らせる制度だと説明。そのためには、本人に責任能力が備わっている必要があると説明した。
そして死刑執行は、必ずしも事件被害者遺族の「癒やし」にはならず、犯罪の抑止効果があるという証明も、ないという証明も、現時点ではないとも述べた。
堀川さんは、2008年から死刑制度に関する取材を続けてきた。死刑囚、教誨師、弁護士、裁判所の調査官、刑務官、被害者遺族などのさまざまな立場に置かれた人々の思いに触れてきた。死刑に関わった歴代の法務大臣らにもインタビューをしたが、その多くが「あれでよかったのだろうか」という思いにさいなまれ、苦しんでいたという。
堀川さんは、取材で出会った人たちが「誰一人幸せになっていない。救われていない」ことを知った。「死刑というのは、人をあやめるという、許されざる罪を犯した人間に対する処遇、解決方法としては、根本的に間違っていると思います」。
社会を変えるためには、自ら出向くこと
パネルセッションでは、事件被害者遺族、元刑務官、大学院生がそれぞれの立場から、死刑制度への思いを述べた。
伸子さんは2021年12月、26人の命が失われた大阪の心療内科放火事件で、クリニック院長だった兄を亡くした。伸子さんは今でも、死刑制度に対しては存置派でも反対派でもないという。事件直後から、受刑者との面談、刑務所での講演、虐待をなくすための活動などを続けているが、それは死刑になる人を生まない社会をつくるために自分にできることをする、という思いからだと話した。
元刑務官でノンフィクション作家の坂本敏夫さんは、自分が30歳くらいの頃、静岡県のみそ製造会社専務宅で一家4人が殺害された強盗・放火事件の犯人として逮捕され、後に死刑判決を受ける袴田巖さんと東京拘置所で面接した時の印象をこう話した。
「一目見て『この人は絶対やって(事件を起こして)いないな』と思いました」
そして現在の「無期懲役」は、ほぼ「終身刑」だと指摘。坂本さんは、「無期の人たちも反省している人たちはたくさんいます。もう一度社会復帰させて、社会で更生した姿を見せてあげたい」とも述べ、「えん罪被害者や刑務所で働く人たちの声に耳を傾け、法制度の整備を進めてほしい」と訴えた。
慶応義塾大学大学院で法律を学んでいる崎浜空音さんは、沖縄県北谷町出身。高校2年生の時にフランスに留学した時のある出来事が、その後の社会活動のきっかけとなった。
ホストファミリーと一緒にテレビを見ていた時、死刑が話題になった。ホストファミリーから「日本に死刑はあるの?」と聞かれ、「『あるよ』と私はなんの疑問も持たずに答えたら『恐ろしいね』という言葉が返ってきました」。崎浜さんは、フランスでは死刑が何年も前に廃止され、死刑は「人権侵害」だと見なされていることを知った。
出身地・沖縄では米兵による性暴力事件が繰り返されている。崎浜さんは、日米地位協定の改定を求める活動に携わるうちに、改定実現のためには、人権侵害であり、長期の身柄拘束などが「人質司法」とも批判される日本の司法制度、死刑が存置されていることなどの見直しが必要だと考えるようになったという。
今年、死刑廃止のための国際会合にも参加し、海外のえん罪被害者の声も聞いた。沖縄戦の犠牲になった家族がいるという崎浜さんは、「『命どぅ宝』という言葉が沖縄にあります。その言葉のように、人の命は勝手に奪われてはいけない」と話し、人の命を何よりも大切にする活動を続けていきたいと締めくくった。
質疑応答の終盤で、会場から「死刑廃止運動への関わり」について問われた堀川さんは、社会を変えよう、闘おうとするのであれば「自分が出向いていって、突破口を探す必要がある」と話した。そして今回のシンポジウムで、意見も経験も世代も異なる人々から「新しい地平を見せてもらえた」と感謝を述べた。

柳川朋毅さん(イエズス会社会司牧センター)、崎浜空音さん、
伸子さん、井田良さん、坂本敏夫さん、堀川惠子さん(主催者提供)
