福島のNPO・若者・教会が共に研修 地球規模の危機の中で「新しい普遍的な連帯」を模索

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福島のNPO・若者・教会が共に研修 地球規模の危機の中で「新しい普遍的な連帯」を模索

 日本のカトリック教会は、「すべてのいのちを守るための月間」(9月1日~10月4日)を迎えている。福島で障害者支援を行っているNPOが9月5日と6日、多様な立場の人々を招いて研修会を開き、前教皇フランシスコの回勅『ラウダート・シ』が呼びかけている「新しい普遍的な連帯」について語り合った。
 参加したのは、福島の若者、外国出身者、東北の復興を支えた官僚・学者のほか、国連の専門機関を含む団体関係者と、日本カトリック司教協議会「ラウダート・シ」部門の委員ら30人余り。参加者は気候変動や紛争など地球規模の課題に直面する中で、あらゆるいのちを守るための“新しい連帯”の必要性を確認し、一人一人が持つ願いや行動力の源泉について考えた。

聞き合い、心に浮かぶ思いを語り合う参加者たち
 カトリック教会の人たちと共に

 この研修会を企画・開催したのは、東日本大震災をきっかけに発足し、震災や原発事故の影響を受けた障害者の雇用創出、就労支援に取り組んでいるNPO「しんせい」。
 しんせい(新生)という名称は、「未曽有の災害の中から、明るく平和な福島に新しく生まれかわろう」との思いに由来する。同NPOは震災後に復興支援を行う人らと出会い、関わり合いながら障害者を支援してきた。地球規模で生じている生物多様性の損失を食い止めるための実践と学びの場として、「山の学校」という名で研修会を催してきた。
 今回の「山の学校」は、震災・原発事故から15年たった今、「東北の復興が目指したものは何だったのか?」という若者からの問いへの答えを、若者と対話をしながら探すことを目的に企画し、カリタスジャパンから資金援助を受けて開かれた。
 カトリックの団体ではない同NPOが、独自に企画・開催する研修会に回勅『ラウダート・シ』について考えるプログラムを盛り込んだのはなぜか。
 きっかけは、カリタスジャパンからの援助が決まった頃、理事長の富永美保さん(62)が知人の勧めで『ラウダート・シ』を読んだことだ。富永さんは、回勅の「わたしたちは新しい普遍的な連帯を必要としています」(14)という教皇の言葉に触れた時のことを、こう振り返る。
 「私は神の存在を信じていませんが、私たちが震災後に協働してきた人たちと(教皇フランシスコが)同じことを言っていると感じて、驚きました。気候変動、経済格差、紛争などの地球規模の大きな課題を乗り越えていくために、カトリック教会の人たちにも学び、新たに連帯していけるのではないかと思いました」

 命の尊さを見つめる

 研修会「山の学校」は、JR郡山駅から車で40分ほど、しんせいが里山に開いた「山の農園」を会場に行われる。
 初日5日のテーマは、「命の尊さを見つめる」。午前は、しんせいのメンバーの案内で農園を散策し、無農薬有機農法による田んぼなどを見学した。

農園を散策し、「しんせい」の理事(左)から、
2011年の原発事故以降、安全な農作物を
つくるために重ねた工夫について聞く参加者たち

 午後は、「東日本大震災・原発事故からの復興」と題してパネルディスカッションが行われ、東日本大震災復興基本法の法案作成に当たった阪本克彦さん(元東日本大震災復興対策本部事務局参事官)など、東北の復興を牽引した4人が登壇した。それぞれの取り組みや復興への思いだけでなく、反省点も分かち合った。
 登壇した一人、池座剛(つよし)さん(NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事)は、震災後に東日本大震災支援全国ネットワーク(JCN)を立ち上げ、東北でJCNや国際NGO「ジャパンプラットフォーム」(JPF)の地域コーディネーターなどを担当した。
 池座さんは「未来に語り継ぐべきこと」として、支援活動を行う人たちが活発に活動する「熱量の高い」被災地でしてしまった「勘違い」について話した。
 池座さんは支援活動を行う中で「皆の期待に完璧に応えなければ」と思い込み、自らを過剰に追い詰めてしまった時期があった。被災した人たちから求められているのは、「スーパーマンになることではなく、対等な関係」。支援組織に所属する側が、被災した人と「一人のただの人間として」出会う時に相手の心も開かれ、その瞬間から支援は始まると思うと池座さんは話した。
 旧・仙台教区サポートセンターのスタッフだった濱山麻子さん(仙台・元寺小路〈もとてらこうじ〉教会)は、発災後に日本のカトリック教会がつくった支援体制やカリタスベース(ボランティア拠点)について説明し、活動の中での出会いを振り返った。
 濱山さんはまた、自身の支えとなった詩人・宮尾節子さんの詩「誰が世界を語るのか」(詩集『女に聞け』に所収)を紹介した。この詩は、濱山さん自身が直接被災していないことに引け目を感じていた頃に読んだ作品で、「当事者でないことを恐れない」という言葉に触れたことが印象に残るという。苦悩の深い当事者に代わり、彼らのために考えたり、想像したりすることができるという、“当事者でない者の役割”に気付かされたと振り返った。
 能登半島地震で被災した石川県輪島市に通い、ボランティア活動をしている山崎ゆららさん(大学3年生/千葉県在住)は、登壇者の発表を聞き、次のように話した。
 「私の場合は当初、被災していない自分は被災者の思いを理解できていないと感じ、活動に難しさも感じていました。でも出会いを通して能登の人も土地も好きになり、今では通うのが楽しみ。『みんなに笑顔になってほしい』という気持ちで活動しています」

パネルディスカッションの後は、自身の思いに通じる写真
を掲げ、感想を語り合った。福島の語り部団体「すばる」
の学生(中)は、薄暗がりの中で焚火(たきび)を囲む人
々の写真を選び、人々の温かさに触れてきた経験を語った
 「共に歩むために」

 2日目のテーマは、「共に歩むために」。「新しい普遍的な連帯」という言葉を意識しながら、「山の学校」校長の大原利眞さん(アジア大気汚染研究センター所長)、国際労働機関(ILO)理事の長澤恵美子さん(「わくわく共創オフィス」代表)と、ラウダート・シ部門委員の荒川千衣子(ちえこ)さん(栃木・大田原教会)がパネルディスカッションを行った。
 荒川さんは、「45年間カトリック信徒の あらかわちえこが『知る』宗教―キリスト教―」と題して、宗教について自身の理解を説明した。他者を助けようとする時、自らの内に湧いてくる熱意や力も「霊的なもの」の一つとして捉えていると話した。
 「新しい普遍的な連帯」の「新しい」は、ギリシャ語で「カイノス」と表現される。カイノスには、質的な新しさや刷新のニュアンスがあることから、聖書では、「本質的な刷新」や「神(の介入)による劇的な変化」を表す言葉として使われていることを紹介した。
 荒川さんは、「連帯」という言葉の意味についても思いを分かち合った。連帯とは、複数の人が常に一緒にいて同じ事に取り組むことだけを意味するのではなく、離れている人と協力して誰かを助けたり、考えの異なる人と大切な価値観を共有したりするために、一人一人が「真理の方向」に向けて「一歩を踏み出す」というイメージがあると語った。

自身の信仰を分かち合う荒川千衣子(ちえこ)さん
「全てがつながっている」と感じた

 2日間の振り返りでは、自分の中に「軸」を持って生きる大切さを語る人、一歩を踏み出すための「源泉」や「一番大事な出発点」が一人一人の「心の中」にあると話す人もいた。
 障害のあるしんせいのメンバーはパネルディスカッションに同席しなかったが、食事の準備のほか野外炊飯などの研修プログラムもサポートし、学びの場を支えた。誇りをもってその役割を果たしていくメンバーの言葉や姿に触れ、自身の内に力が湧いたと、喜びを語った参加者もいた。

野外炊飯の作業後、ネパール出身の学生(左)から
ネパールの壮大な自然や民族舞踊の動画を見せてもら
い、興味津々の「しんせい」のメンバーら参加者たち

 農村指導者を養成する「アジア学院」(栃木県)で学ぶネパール出身のクリシュナ・ハリ・ドゥラルさんは、最近ネパールを襲った水害に言及。今回の水害は、氷河が解けたことが原因とされる。この水害以降、連絡がとれなくなった知人がいるとクリシュナさんは語り、世界の皆で気候変動の問題に目を向けてほしいと訴えた。
 ILO理事として、また元経団連「1%クラブ」事務局次長としての経験を基に、しんせいをサポートしてきた長澤さんは、今回の研修にカトリック教会からも参加があったことによって議論が「深まった」と思うと話した。
 会場からは、「若者たちの存在に希望を感じた」という声が複数上がった。
 研修には、福島で震災の記憶と教訓を語り継ぐ、若者の語り部団体「すばる」の5人が参加していた。メンバーの吉田悠斗(はると)さん(大学2年生)は、集いの最後に「復興も環境問題も、全てがつながっていると感じました」と語り、この気づきを今後の活動につなげていきたいと話した。

今回の「山の学校」に参加・協力した
「すばる」の若者たち(右奥)

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