日本カトリック神学院(東京・練馬区)は今年度から神学生の知的養成に関する仕組みにおいて進展を遂げている。上智大学神学部との提携が正式に承認され、教会認可学位の授与などを行うことのできる教会的研究教育機関としての体制が整ったことによる。このことで、神学院の学術レベルの維持と向上が促進され、神学生・司祭が後に海外留学するためにも有効な資格が得られることになり、将来の教員養成にも弾みがつくこととなる。さらに、より広い意味で、日本の教会における神学研究、神学教育の拠点となっていくことが期待される。

ここに至る経緯、その意義についてこの提携の手続きに携わった同神学院養成者の浅井太郎神父(名古屋教区)に話を聞いた。
◆ 知的養成に関する用語 ◆
― 今回のお話に関して、いくつか耳慣れない用語があります。「学務」「学事」、それから提携関係の関する「アッフィリアチオ」、そして「知的養成」などです。簡単に説明していただけますか。
神学院における教育課程、カリキュラム全般に関することを「学務」と呼んでいます。一般には学事、教務とも呼ばれることでしょう。そのための規則なり規準を定めたものが「学事規則書」です。その内容は履修科目の構成や単位に関することはもちろん教員組織や運営・管理面にまで及びます。
それから「アッフィリアチオ」ですが確かに訳しにくい言葉(直訳すると"娘化”)で、「学務提携」とも訳されますが、具体的には「学位取得に関する提携」です。同等関係ではなく、上智大学の教皇庁認可神学部に対して、こちらがいわば“娘”のような位置関係になることを意味しています。
「知的養成」という語ですが、現代の司祭養成においては養成の四つの次元が重視されています。人間的次元、霊的次元、知的次元、司牧的次元です。この知的次元の養成は哲学や神学といった学問を修める課程を内容としますが、司祭養成全体のビジョンの中で行われるということが重要なので、今回のお話の中ではとても大切な言葉となっています。
― いま上智大学の教皇庁認可神学部と言われましたが、これはどのようなものでしょう。
上智大学の神学部は一般的な大学の学部という側面を今は持っていますが、教会的には「教皇庁認可神学部」というものです。そこに在学する神学生や信徒の学生は、教皇庁認可神学部の学生に許される、いわゆるSTB(バカロレア=教会認可神学学士)とかSTL(リチェンチア=教会認可神学教授資格[神学修士号に相当])といった学位試験を受けられます。今回、私たちは、そのような資格をカトリック神学院の神学生も授与されるための提携を模索したわけです。このお話の中で、「上智大学神学部」と言う時、それは教皇庁認可神学部のことだと、ご了解ください。
◆ 経 緯 ◆
― そのような上智大学神学部との提携が正式承認されたということですが、いつごろからの取り組みですか。
直接には、日本カトリック神学院が2019年に東京カトリック神学院と福岡カトリック神学院に分離したことを契機にしています。その時から、東京カトリック神学院として上智大学教神学部との提携を模索し始めたのです。
― その時から、というのはどうしてでしょうか。
周知のように、2009年にそれまでの東京カトリック神学院と福岡サン・スルピス大神学院が統合されて、日本カトリック神学院(東京と福岡の2キャンパス制)になりました。あの時から2018年まで日本カトリック神学院はローマの教皇庁立ウルバノ大学(福音宣教省管轄)との提携があり、神学生たちの学位もこの関係に基づいて授与されていました。
その前にさかのぼってお話ししますと、戦後、東京カトリック神学院は運営をイエズス会が行うものとなり、学務面は、上智大学神学部に委託され、その提携関係の下にありました。やがて、1970年、東京カトリック神学院の運営責任はイエズス会から日本カトリック司教団に移管されたのですが、学務上は変わらず上智大学神学部に任されていました。
その後、1990年、東京カトリック神学院は独自コース(固有の養成課程)を持つことになり、学務面でも上智大学神学部と切り離されました。そしてその後しばらくして独自にウルバノ大学と提携を結ぶことになったのです。2009年、日本カトリック神学院として統合された後も、ウルバノ大学との提携は引き継がれていました。
それが、2019年、再び福岡と東京に分離された時、福岡カトリック神学院はウルバノとの学務提携を引き継ぎましたが、東京カトリック神学院の方はあらためて上智大学神学部との提携を模索するようになったのです。
◆ 教皇庁の新指針を受けての取り組み ◆
― 日本の神学院が刻々変化する中での模索となったのですね。
はい、加えて、2017年12月に教皇フランシスコの使徒憲章『ヴェーリターティス・ガウディウム』(真理の喜び)』というカトリック大学および教皇庁認可神学部の新しい設置基準書が発布されています。これには世界中のカトリック大学が対応を迫られ、上智大学神学部でもさまざまな対応が求められていました。さらに2020年12月に教皇庁文化教育省から諸大学間のアッフィリアチオに関する指針が出ました。そうした文書に基づいて、日本カトリック神学院は、あらためて上智大学神学部に提携を求めることになりました。2021年7月に、神学院担当司教、神学院院長と共に上智大学に行き、神学部長に意向を伝えたところから提携への動きが本格的に始まりました。
― そのように新しい指針に基づく実際の手続きはさぞ大変だったのではないですか。
最初は何をどうしたらよいのか、まったく分からなかったので、とりあえず、かつてウルバノ大学に提携申請を出した際の書式を踏襲するかたちで、今ある教科やその概要(シラバス)を英訳して申請書を作り、提出してみました。それに対して、2023年11月に教皇庁文化教育省から正式な手続き方法についての通達を受けました。そこで求められたのは新たな学事規則書の作成、常勤教員の配備、そして「日本カトリック神学院」とは別な新しい名称を持つことでした。
この中で最も苦労したのは学事規則書の作成でした。まさか求められるとは思っていなかったのです。結局、インドのある神学校の学事規則書が送られてきて、それをモデルとしてはどうかとの助言を受けました。そこでそれを踏襲しながら新たな学事規則書を作成しました。
また新しい名前というのも驚きでした。つまり、日本カトリック神学院は教皇庁聖職者省の管轄にある機関なのですが、それと物理的には同じでありつつ、他方で、神学院の学術レベルを保つための、教皇庁文化教育省の管轄にある研究教育機関でもあることを明示する名称を持つよう求められたのです。そこで、「東京カトリック神学研究所」という名称にして、2024年5月、新しい学事規則書案を文化教育省の担当官に送り、修正を受けました。
その後も、哲学科目の一定数の増加や「司牧コース」(神学院を卒業して助祭叙階を受けた人たちに司祭叙階前に授けられるべき課程)の新設が求められたため、その対応を考えて必要書類を全て完成させ、昨年(2025年)6月の司教総会での最終確認を経て、上智大学神学部長に正式に申請書類として提出しました。これに対して、同年9月4日付の文化教育省の教令により、上智大学教皇庁認可神学部とのアッフィリアチオが正式に承認され、「東京カトリック神学研究所」という機関でもあることが認められたのです。
◆ 日本の教会にとって意味するもの ◆
― おめでとうございます。このことの具体的な効果は何でしょうか。
今いる神学生にとっては急な変更ということはありません。今回の正式承認によって、これからローマやヨーロッパに留学する人たちにとって、また司祭になっている人たちが海外で研修をして研さんを積もうとするときの基本資格が得られるという点が最も大きなことです。それがないことで、海外留学をしてからバカロレアを取得するための勉学をしなくてはならなかったという状況も多々あったからです。当院で取得した学位を基礎に次の資格(リチェンチア)を取得する課程にすぐ入ることができるのです。全般的に神学生の知的養成、司祭になってからの研さんと知的向上のために普遍的な基盤ができたという点が重要です。今後のこの面での発展に弾みがつくことになるのです。
ちなみに、日本カトリック神学院の常勤教員の先生方は教授という資格に、正式になっています。厳密にいえば、「東京カトリック神学研究所」の教授ということです。
― 神学研究所ということで思い起こされるのは、2009年に日本カトリック神学院になってから出されていた『紀要』や、昨年、行われた「ニケア公会議1700年」をテーマにした神学講座などです。そのような取り組みが期待されていくということでしょうか。
はい、将来的にそのような方向性なのだと思います。確かに教育と研究は分離できません。どの大学でも取り組んでいる課題です。ただ、ここの神学院の場合は目の前にしている学生が司祭志願者、神学生であるということがあります。将来、教会の中で宣教と司牧に携わる学生たちを育成している機関であるということから、教育においても研究においても力点が変わってくるというか固有の課題、使命があると考えています。しかし、それはこれからの課題です。
― なるほど、大きな歴史的な意義があるのですね。
初めにも触れましたが、今回の上智大学神学部との新たな提携関係は、1990年にいったん上智大学から分離されて、司祭養成のための神学課程として独自コースを築き、独自の学務を築いてきた35年間の神学院の歩みの新たな実りということができます。さらにもっといえば、1970年に東京カトリック神学院の運営がイエズス会から日本の司教団に移管されて以来の55年間の歩みのひと区切りでもあります。
― ほかにはどのような可能性が見えてくるでしょうか。
この神学院が、司祭養成に特化した教皇庁認可神学研究所という新しい機関ともなったことは、今後に向けてとても大きな可能性を開くものです。今回の手続きにあたって、菊地功枢機卿様が、日本カトリック司教協議会の会長としてと、東京大司教区長としての二つの面から「見解書」を寄せてくださっています。そこでは、将来のことではありますが、信徒の養成、とりわけカテキスタ(要理教師)の養成の可能性についても言及されています。実際のところ修道会の神学生にも開かれた教育機関であり、さらに司祭の研修機関ともなり得ます。その意味で日本における司牧センター的な存在になっていけるとよいと願っています。もちろんあくまで一つのビジョンでしかありませんが。
― とても大きなビジョンが開かれていくのですね。
もう一つ考えるべきことは、このような経過そのものが第2バチカン公会議からの大きな潮流を反映しているということです。日本の神学校は長くウルバノ大学との提携で運営されていましたが、教会は「ローマ中心」となることを望んでいないのです。各地域にある教皇庁認可神学部との提携を奨励しているのであり、そのように各国・各地域の個性に合わせた学術行政を期待しているのです。従って、学科構成や司牧コースなどの具体化に際しては各地域の教会に合った工夫が大切になります。そのような、現代教会の大きな潮流というものを意義深く感じた今回の手続きでした。
― 今後の展開に期待しています。ありがとうございました。
◆ 関係者談話 ◆
【佐久間勤神父 イエズス会日本管区長】 「今回のアッフィリアチオの手続きに管区長として関与しましたが、それは、東京にある教皇庁認可神学部と哲学部の運営がイエズス会に委ねられているからです。学長(チャンセラー)はイエズス会総長で、日本管区長が総長の代理として実際の運営責任者となっています。アッフィリアチオによる学位(STB)は教会認可の学位ですので上智大学卒業にはなりませんが、他方で世界の教皇庁認可学部に共通の学位として認められます。カトリック神学院の卒業生にとって勉学のチャンスが世界に広がります。また教区、宣教会、修道会、信徒の皆さんにとって、養成の期間中に教室を共にし、交流する機会にもなります。今回認可されたアッフィリアチオはシノダルな教会の歩みに貢献することでしょう」
【稲川圭三神父 日本カトリック神学院院長】 「浅井師がまとめで、今回の動きが『第2バチカン公会議からの大きな潮流を反映している』ということを言っておられます。教会は『ローマ中心』となることを望んでいません。日本の地で働く司祭がより良い宣教・司牧活動を行っていけるように、学科構成や授業内容が精査され、司牧コースが具体化されていきますように。研究所の働きに期待致します」
*参考文献
教皇庁聖職者省『司祭召命のたまもの 司祭養成基本綱要』(カトリック中央協議会 2022年)


