非武装・非暴力の道を見定める 平和旬間2026 東京教区の取り組み

 東京教区(菊地功枢機卿)では、8月8日と9日の2日間にわたって平和行事が催された。1日目は、関口教会ケルンホールでの講演会、カテドラル聖マリア大聖堂における平和を願うミサ、平和巡礼ウオーク、2日目は町田教会(東京・町田市)で講演会、徳田教会(東京・練馬区)で映画上映会が催された。特に二つの講演会では、非武装・非暴力の道を見定める学びがなされ、平和を願うミサで菊地枢機卿は、現在の世界情勢の中で、「たまものであるいのちを守るのは、私たちの信仰における決断です。平和を確立するための道です」と力強く呼びかけた。

 東アジアの平和に不可欠な日米関係とアメリカ政治を学ぶ

 東京教区の平和旬間行事実行委員会では、今年の講演会を企画するに当たり、多くの方の関心事として「東アジアの平和」を取り上げ、これに深く関係する今の米国の政治動向を聞こうと、上智大学総合グローバル学部教授・前嶋(まえしま)和弘氏を講師に招いた。

講師の前嶋和弘氏(©️東京大司教区 M.A.F.)

 「戦争と平和:急変する日米関係と東アジアの情勢」と題された講演で、前嶋氏は、第2次世界大戦の戦後処理の段階からの日米関係の変遷を振り返った。日本の非武装化と、わずかのタイミングの差で本格化した冷戦下の日米安保体制の矛盾の焦点に自衛隊がある。1990~91年の湾岸戦争が転機となり、東西冷戦後の秩序の中で日本は自衛隊の海外派遣に踏み出し、1999年の「周辺事態法」から2015年の「周辺事態安全確保法」への進展で米軍の後方支援活動を合法化し、自衛隊が日本の領土の外で活動することも可能となった。
 米国では、トランプ政権のアメリカファーストを主張するいわゆる「ドンロー主義」が登場。東アジアにおいては中国・ロシアに対し日本と韓国が自前で安全保障上の対処をすることを求め、これらの国々は国防費の増強が迫られ、核武装さえ語られつつある。そのトランプ政権の支持層としての米国の福音派についても説明が及んだ。さまざまなデータ、独自の人脈を持つ前嶋氏のリアルな話に、ケルンホールに集った約150人の参加者は熱心に耳を傾けた。

 「愚直に平和を語り続けるものでありたい」

 午後3時半からは、カテドラル聖マリア大聖堂で「平和を願うミサ」がおよそ350人の参加者と共にささげられた。

司式する菊地枢機卿(©️東京大司教区 M.A.F.)

 ミサの説教の中で、菊地枢機卿は、1981年に広島を訪問した聖ヨハネ・パウロ2世教皇の平和アピールを思い起こさせ、また教皇レオ14世の自著(バチカンで近日発表予定)のタイトルが『武器のない、武器を取り除く平和』(仮訳)となっていることを紹介。昨年、戦後80年に当たっての日本司教団メッセージ「平和を紡ぐ旅――希望を携えて」が示した「今の日本は、果たして平和への道を進んでいるのでしょうか」との問いが「今この瞬間、ますます大きな意味をもって私たちに突きつけられています」と強調。

説教(©️東京大司教区 M.A.F.)

 「世界の各地で、平和は片隅に追いやられ、忘れ去られ、命が危機に直面し、暴力のもたらす絶望が支配しています」。にもかかわらず、「私たちはこの現実の中で、愚直に平和を語り続けるものでありたいと思います。非戦による平和を説いて迫害されたエレミヤでありたいと思います」「たまものであるいのちを守るのは、私たちの信仰における決断です。平和を確立するための道です。平和旬間に当たり、あらためて私たちの信仰に生きる姿勢を見直しましょう」と、枢機卿は呼びかけた。
 
 講演での学び、ミサでの祈りを胸に、ミサ後、続いて平和巡礼ウオークがカテドラルからJR目白駅まで行われた。約140人が参加。「平和旬間行事は新型コロナの影響で中止の時期もありましたが、2023年に再開し、平和巡礼ウオークに関しては昨年、歩道を歩く形で復活しました。今年は『車道を歩きたい』との声が上がって実施しましたが、車道を歩く方が参加者の一体感があって良かったとの意見が多くありました。来年も実施したいと考えています」と実行委員は語る。 

出発する巡礼ウオーク(©️東京大司教区 M.A.F.)
車道を行進(©️東京大司教区 M.A.F.)

 「共に歩む」教会としての信仰と非暴力

 2日目の9日、町田教会で行われた弘田しずえ修道女(ベリス・メルセス宣教修道女会)は、「今、シノダリティーの教会から信仰を生きるーイエスの非暴力と9条」と題して講演。第2バチカン公会議以降のカトリック教会の歩みを踏まえて、非武装・非暴力の道を見定めた。

講師の弘田しずえ修道女

 2021年10月に始まった前教皇フランシスコによる「共に歩む」教会、シノダリティー(協働性)の教会を目指す運動は、第2バチカン公会議が打ち出した「神の民」としての教会という考え方を徹底しようとするものにほかならない。信徒も含めてすべての信者が主体であるだけでなく、社会の中で谷間に追いやられ、教会においても居場所を持てないでいる人々、たとえば「LGBTQA+」の人々、再婚者たち、難民・移住者たちなどが居場所を持てる教会になっていこうという姿勢だ。それはとりわけ2023年10月のシノドス第1会期によく表れた。会場は、同じフロアーに多くの円卓が置かれ、職位、性別、国籍、教派なども超えた分かち合いの場となっていった。そこで「霊における会話」という傾聴を基本とする分かち合いの形が経験され、それは、今、教会全体で促進されつつある。

 こうした姿勢は、教皇レオ14世に受け継がれ、5月に発表した新しい回勅「人間の偉大さ AIの時代における人格の擁護」は、社会正義や人権、人間の尊厳が無視されかねない大きな技術革新の中で、いのちの豊かさ、人間らしさを保ち続けることを説いている。そのために、非暴力こそが私たちの決断、人間関係、行動を特徴づけるものでなくてはならないと、教皇は訴えている。キリストの道は非暴力の道、そして国の在り方としての非暴力を表現しているのが日本国憲法9条だ。イエスが故郷ナザレで、山の崖から突き落そうとした人々の間を通り抜けて立ち去ったこと(ルカ4・28~30参照)が示唆的で、イエスの非暴力は、暴力に抵抗するものではなく、愛の力を具体化すること、正義と平和を可能にすることだ。十字架から復活へと歩んだイエスが私たちの中に共におられ、その力を与えてくれている。

 小教区の「平和のための行動」

 今回の弘田修道女の講演会およびその後の交流会を企画したのは、町田教会のアクションフォーピースという活動グループ。同教会の生涯養成委員会との共催として実施された。そのアクションフォーピースについて、代表の小山夏比古さん(79)に話を聞いた。
 「アクション・フォー・ピース(AFP)は1991年、湾岸戦後の国連平和維持軍(PKO)協力法案に反対する活動を契機として、当時町田教会の主任司祭で、今は東京正義と平和の会の指導司祭である大倉一美神父と信徒の方で始められたと聞いています。2年前、私が代表を引き受けて以来、誰でも参加でき、自由に社会問題を話し合う月例の『オープンフォーラム』と同時に、年2回の講演会を開催してきました。私が参加するカトリック東京正義と平和の会は、カリタス東京の一部門として東京教区の平和旬間行事の企画とその運営を担っていますが、昨年来の打ち合わせの席上、AFPの町田教会での企画を紹介し、チラシを事務局長に渡すと、全小教区にそれを配付したいとの提案がありました。 開催日が平和旬間であることから、『小教区企画』として平和旬間のチラシに載せていただいたものと思います。私は思わず『やった‼』と思いました。昨年から念じていたことが期せずして実現できたのですから」
 小教区の取り組みと教区の取り組みが響き合ったかたちだ。

8月9日の講演会、町田教会聖堂に約120人が集った
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