米国による軍事介入から2カ月 「フルタイムで平和を生きる」道へ 駐日ベネズエラ大使インタビュー
米トランプ政権が1月3日、南米ベネズエラに対して行った軍事介入で100人以上が犠牲となった。当日拘束されたベネズエラ大統領夫妻は、介入から2カ月となる今も米国にとどめ置かれている。2月下旬、東京・中央区の駐日ベネズエラ・ボリバル共和国大使館でセイコウ・イシカワ大使に今の思いを聞いた。
カトリック信徒でもあるイシカワ大使は介入による衝撃と教会の対応を振り返り、キリスト者が「フルタイムで平和を生きる」ことの重要性を強調。難局の中で気付きを得たベネズエラ国民は今、これまでの分裂を乗り越え、国を内側から立て直すための対話を始めているという。
自国で解決する「責任」がある
イシカワ大使は、米軍が昨年9月以降、ベネズエラ北方のカリブ海で行ってきた「違法な軍事攻撃」についてこう説明した。
攻撃されたのは、麻薬密輸の疑いがあるとされたベネズエラ、トリニダード・トバゴ、そしてコロンビア船籍の船だった。犠牲者は150人以上。これらの軍事作戦には正当な手続きが欠けていたため、今なお多くの犠牲者が確認されていない。
米国が1月3日に行った軍事介入による人的被害は死者100人以上、負傷者100人以上に上る。大統領夫妻は今も米国にとどめ置かれたままだ。
「国民は冷静に行動していますが、軍事介入の記憶は新しく、心の傷跡は残っています」
一方、これまで国内外のメディアが主に報じてきたのは、ベネズエラの政治状況、選挙や人権の問題、さらにはノーベル平和賞を受賞した野党政治家の動向など「内政」に関する話題だった。
これについてイシカワ大使は、「今、より大切なのは、世界最大の軍事力と核兵器を保有する米国が、それらを持たない国に対して軍事行動を取ることの是非を問う議論」だと強調する。「内政問題の議論を避けるという意味ではありません。ベネズエラ政府は、(年始の軍事介入を含む昨年9月以降の一連の)攻撃について米国に対し繰り返し抗議し、説明を求めてきました」
さらに大使は、今回の問題の本質は「全ての国が共有する、唯一の世界秩序である国際法がないがしろにされた点」だと指摘する。
国際法は国家の主権平等を基本原則としている。各国は自国の管轄下にある人々の権利を尊重・保護する義務を負う。「主権と義務は、全ての国に共通するはずです」
米国による介入翌日の1月4日、「教皇レオ14世もサンピエトロ広場で『お告げの祈り』をささげた後、ベネズエラの自治権と自決権を尊重する必要性があると、はっきりおっしゃっています(→関連記事)。ベネズエラは自国に介入した米国に抗議するとともに、自分たちが抱える問題を自分たちで解決しなければならない。主権を持つ国に対し、軍事介入は許される手段ではないということです」。
だがこの重要な議論が、一部のメディアによって「的を外されている」ように感じてきたと、イシカワ大使はこう問題視する。
「攻撃の違法性を告発する前にベネズエラの民主主義を疑問視することで、侵略を正当化しようとしているのは極めて危機的な状況です。このような操作は、軍事力行使を常態化させる危険な前例となります」
イシカワ大使は、ベネズエラの聖心会の修道女12人が1月4日に発表した声明にも言及した。声明は、米国の攻撃が武力によって主権国家の意志を支配しようとする「王・皇帝・神」のような振る舞いだと非難する。
「シスターたちは国際法こそが平和の唯一の保証であることを思い起こさせ、メディアを通じて自国の利益のために他国を操ろうとする勢力を明確に拒絶しています」
一人一人が回心を続ける

イシカワ大使は、「カトリック信徒にとって、この議論は平和の問題に直結」していると説明する。
「平和を実現していく心は、コンプリート(完全)なものであるべきです」。平和を部分的、条件付きで考えるのでは不十分だが、ベネズエラについては国際法が適用されたりされなかったりと、「あいまいさ」が容認されているのが現状だ。
「『独裁国家だったベネズエラには、例外的に攻撃も許されるのではないか』というメッセージが、マスコミの報道から伝わってくるのです」
いま自身の心に浮かぶのは、前教皇フランシスコが2013年5月の一般謁見で語ったメッセージだという。
「『(あなたがたは)パートタイムのクリスチャンであってはならない。常に、完全に(フルタイムの)クリスチャンでなければならない』と。もちろん完全な人はいません。しかしだからこそ私たちキリスト者は一人一人が回心を願い求め、常に新しく生まれ変わるという本質的な部分を忘れないでいることが重要なのではないでしょうか」
キリスト者の在り方も、平和や国際法の解釈も「部分的、条件付き」であってはならない。「例外をつくると、その〝隙間〟からいろいろな問題が生じるということだと私は思います」
ベネズエラの新たな一歩
ベネズエラは2014年以降、「社会の混乱」が続いてきたとイシカワ大使は説明する。反政府デモや憲法秩序を巡る対立で大勢が犠牲となった。暫定大統領宣言による二重権力状態、経済崩壊など深刻な政治危機を繰り返してきた。国外への大規模移民も発生している。
24年の大統領選では公正性を巡る国際的な懸念が高まり、野党指導者マリア・コリナ・マチャド氏の公職資格停止が問題となった。同氏は25年、ノーベル平和賞を受賞している。
イシカワ大使によれば、「これまでベネズエラでは政治的な分断や暴動が続き、政治について議論することが難しかった」という。しかし、カリブ海で米軍による攻撃が始まって以降、ベネズエラは国を内側から立て直すための「内部的な結束」を強化。「現在、政府と野党の双方が、政治的安定と相互尊重、そしてリーダー(大統領)の帰還を求め、共に歩んでいます」と述べた。
こうした団結の土台となったのは、昨年9月に米国がカリブ海で船舶を攻撃し始めたことを受け、同月に設立された「主権と平和のための国家評議会」だという。これは農業組合、企業家、学生の団体など多様な立場の人々が集まり、領土の保全、独立、そして平和を守るための常設機関だ。
さらに今年1月3日の侵攻を受け、ベネズエラ国民議会では「民主的共生のための恩赦法」の制定に向けた議論が始まっている。この法律は、1999年から2025年までの間に政治的理由で起訴された人々に恩赦を与えることを目的としている。恩赦については過去にも検討されてきた。だが今回の法案は特に「政治的対立を乗り越え、国家の平和を保証するための包括的な正義と和解の枠組み」を構築することを目指している。
イシカワ大使は言う。「国民のこのような団結を私が見るのは、この20数年来、初めてのことです。『国を守れるのは自国の政府しかない。皆が団結して政府をサポートしなければならない』と国民自身が気付いたのだと思います。外部からの暴力とは対照的な、ベネズエラ国民の平和への強い意志を証明しています」
武力ではなく、外交と対話で
「ベネズエラは、いかに立場の異なる国に対しても、外交と対話を通して協力する姿勢を貫いてきた」とイシカワ大使は強調する。「だからこそ圧倒的軍事力をもって迫る米国とも、交渉を続けられるのだと思います。米国が特別だから特別な対応をするということではありません」
教皇レオ14世は昨年10月、バチカンでベネズエラ出身の聖ホセ・グレゴリオ・エルナンデスと聖カルメン・レンディレスを列聖した。ベネズエラは国民の大多数がカトリック信者だが、同国出身の聖人の列聖は初めて。翌11月には、ベネズエラ出身の駐日教皇庁大使フランシスコ・エスカランテ・モリーナ大司教主司式による列聖感謝ミサが東京でささげられ(→関連記事)、イシカワ大使も参加した。
「聖人2人の加護の下、ベネズエラ国民は尊厳を守るために立ち続けています」。今こそキリスト者が「フルタイムのクリスチャンとして」軍事侵略の停止を求めていく時だと、イシカワ大使は語っていた。

会見を開き、報道陣の質問に答えるイシカワ大使
