一般財団法人 人間塾 仲野好重塾長カトリック新聞の教育コラムが新刊本に

一般財団法人 人間塾 仲野好重塾長
カトリック新聞の教育コラムが新刊本に

 
 一般財団法人 人間塾(東京都千代田区二番町)の仲野好重(よしえ)塾長は、週刊のカトリック新聞で2013年12月から10余年にわたって教育コラム「若者へのメッセージ 不安社会の中で逆流を生き抜く」を担当した。合計136回のコラムは、自分が受けた恩を他の人に返す「恩送り」によって「支え合いの連鎖」を広げていこうと呼びかけるものや、自分の才能を生かして「君だからこそできる生き方」で人を幸せにしていこうと励ましを与えるものなど、若者たちにとって人生の視点を変えるヒントにあふれている。4月25日には、同コラムの130回分を掲載した『君は捨てたものじゃない!』(キリスト新聞社刊/1600円+税)が発売されることになった。

 評価されることに必死な若者たち

 近年、経済的発展とともに日本社会は「成果主義」や「効率主義」が加速し、若者たちはその中で〝自らの評価〟を常に気にし、また高く〝評価〟されることに躍起になっている。
 仲野塾長が代表理事を務める人間塾は創立から14年にわたってスカラーシップ(給付型奨学金)制度で大学生を応援し、さらに「世のため、人のため」に貢献できる人間教育によって大学生の「人間力」を高めることに尽力している。これまで人間塾を修了した若者は100人を超えるが、仲野塾長は2020年の新型コロナウイルスの流行以降、若者たちに大きな変化があったと感じている。
 まずコロナ禍でオンライン授業が中心になったことで、ますます人と人との関係が希薄になってしまった。さらに自分で深く考えることもなく、インターネットで得た情報を切り貼りして〝自分の考え〟に見せかける「仮面をかぶった若者」が増えているのだという。
 仲野塾長はこう説明する。


 「常に『君は偉いね。できる子だね』などと評価されることを望む若者が目立ちます。大学のゼミに行けば、仲間外れにされないように周囲の考え方に合わせていく。部活では先輩のやり方を守っていく。いつも〝ゼミ用の顔〟や〝部活用の顔〟、また〝人間塾用の顔〟など、その場その場で〝仮面〟を付け変えて相手に迎合し、評価を得ようとします。その〝仮面〟は全部バラバラで、自分を貫く統一の考え方がないので、内面に分裂が起きてくる。そのため中身がない。自信がない。結局、自分が何をやりたいかが分からなくなってしまうのです」
 仲野塾長が驚いたことは、10年前であれば「人生の意味は?」と塾生に問いかけると、「社会のために自分の才能を役立てること」などと、学生からはそれなりの答えが返ってきた。しかし、現在は「意味」という言葉自体の捉え方が違うようだ。若者たちの間には、「意味があること=偏差値が高いこと=評価が高いこと」などという考えがしみ込んでしまっているため、「人生の意味」というその言葉自体が、数字に表れる「価値論」「評価」にすり替わってしまうというのだ。
 つまり「人生の意味は」という質問は、若者たちにとって「人生で評価されることは何か?」というニュアンスになってしまう。まず「意味」という言葉の定義から始めないと会話が進まないという状況なのだと仲野塾長は言う。

きれい事ではなく本気で向き合う

 若者たちがこれだけ「評価されること」にこだわるようになると、次のような現象が起きる。本音を言えば評価が下がるから、本音は隠す。弱い自分を見せると評価が下がるから、自分の醜さも隠し通す。自分を「良く見せる」ためなら、うそも付くつくし、ズルもする。高評価を得るためならば、人を欺きもするし、「強い者(権力)」に巻かれる。
 そうした人間が形成する社会や組織は一体どうなっていくのだろうか――。仲野塾長はこう考える。
 「自分の弱さや醜さ、失敗こそが、実は自分を成長させる〝宝〟なのです。自分の〝恥ずかしい部分〟を見つめ、向き合って、本音が出てこそ〝より良い自分〟に変わることができるからです。自分が受けた恩を返すといった『恩送り』の精神や、『世のため、人のため』という価値観を伝えようと思っても、現代社会の若者たちにはそれを理解するための土台ができていません。まずは人間教育の前の土台づくりから始めなければならない状況なので、以前よりも時間をかけて、若者たちに関わっています」
 今回の著書の表紙絵には、エゴン・シーレの有名な「ほおずきの実のある自画像」が使われている。22歳のシーレの内的世界を表現した自画像で、画家としての葛藤や迷いなど、正直な内面が投影されていると同時に、葛藤を乗り越えて「自分の進むべき道」を絶対に見つけたいという強いエネルギーも感じさせてくれる。
 「若者たちは、当時のシーレのように自分の内面を表に出す訓練の最中にいると思います。〝隠しておきたい本当の自分〟を表に出して、本音が出てこそ、初めて自分が学ぶべきところも分かりますし、足りない部分も分かり、成長することができます。若者に関わる方々には、忍耐をもって時間をかけて、若者たちを励まし、『ありのままの君を出して大丈夫なんだよ』と声をかけ、彼らの本音を引き出して、自分にしか歩めない道を探すお手伝いをし続けてほしいと願っています」(仲野塾長)
 今回の仲野塾長の著書『君は捨てたものじゃない!』には、若者や、若者に関わる人々への応援メッセージがふんだんに詰まっている。

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