「これだけの内容・ボリュームの資料を、この値段で出せるはずがない」。ある大学図書館のスタッフは、広島教区から献本された本書を手に、こう驚いて話す。
本書は教区創立100周年に際しての「記念誌」ではなく、教区の将来に向けての「歴史書」として編まれた。
巻頭の「はじめに」によれば、今日まで教区史と呼ばれるものは幾度も編まれてきたが、その全てが残されているわけではない。今後も史資料の散逸が予測されるため、広島教区として「ひとまず出来事と経緯が忘却されないようにまとめ、次代に託す必要がある」と考えた。
そのため、できるだけ多くの資料や文献を調べ、司教館や修道会に保管されている文書から記録を探し出しているという。特に依拠できる史料に乏しい前史部分は、宣教会・修道会の報告に依存している。評価の定まっていない近年の出来事については価値判断を控えて触れ、次代に引き継ぐにとどめたと記す。
「埋もれている史料が存在する可能性は十分にあり」、それらに基づく指摘を踏まえ、やがて改めて『百五十年史』『二百年史』などが編さんされるよう願う、とも述べる。
市販された本書は、関心を持った一般市民・研究者と共に教区の「正史」を形にしていくための手掛かりでもある。
冒頭で取り上げるのは、教区内全ての小教区・巡回教会と修道院の名を記した地図「広島教区現況(2018年度)」だ。
「教区創立前史」に続く第1章「教区創立とイエズス会」から「平和の使徒を目指して」まで、全10章で構成。第8章は「教区財政について」の観点から、各時代の困難や信仰、宣教への熱意を伝える。
豊富な写真資料、注記・文献表や、「カトリック教会の社会問題に関する公的発言集 1991-2000」などの資料にアクセスできるQRコードのほか、「元聖公会司祭深井渙二(かんじ)について」「教区内での参拝拒否―井上農富雄の事例」などのコラムも収録した。
A5判540ページと大部だが、本文の文字は大きく、読みやすい。価格は1980円(税込)。広島教区百年史編纂(へんさん)委員会編、サンパウロ刊。
教区ウェブサイトでは、購入先や、本書についての問い合わせ先(聖職者・信徒個人、図書館や研究者関係者用)も紹介している。

