2010年代から、赤ちゃんを激しく揺さぶって虐待したと疑われ、親や周囲の大人が逮捕・起訴される事件が相次いだ。マスコミも盛んに報じた。
本作は、その〝虐待〟事件が多くの冤罪(えんざい)を生んだ事実に迫るドキュメンタリー。8年にわたって調査報道を続けた関西テレビの報道記者、上田大輔さんの初監督作だ。
虐待をなくそうとする検察側と、冤罪をなくそうとする弁護側、それぞれの正義がぶつかり合う。そしてある時期から事態は一転、無罪判決が続出する。
上田さんはかつて無実の人を救う弁護士を志し、司法試験をクリアした。だが、起訴されれば99.8%が有罪になる日本の刑事司法の現実に絶望。企業内弁護士としてテレビ局に入社するものの、やはり刑事司法の問題に向き合おうと記者になった。
記者1年目に取材を始めたのが「揺さぶられっ子症候群」、通称「SBS」だ。SBSの揺さぶりは、1秒間に3往復。SBS事件での逮捕・起訴が急増していた中で、「そこまで激しい揺さぶりをする親が、そんなにいるのだろうか?」と違和感を抱いた。
上田さんは、容疑者となった親や、その無実を信じる家族をはじめ、弁護士、学者・専門家ら、冤罪をなくそうとする人々と出会う。彼ら検証チームの作業に立ち会い、一人一人の声を丁寧に聞きとっていく。やがてチームは、科学的事実によって検察側の〝有罪の根拠〟を突きくずしていく。
浮き彫りになるのは、起訴した容疑者を有罪にとどめ置こうとする検察側の歪んだこだわりや、虐待診断で事実をありのままに見ることのできない医師ら専門家の〝目〟といった、見えにくい冤罪の源。そして、冤罪をなくそうとする人々の心にある「人を信じる力」だ。
上田さんはマスコミ報道の在り方を省み、報道記者として自身の過ちの根を探っていく。
冤罪被害者の一人、今西貴大さんは、自身のことを当初は疑っていたと明かした上田さんにこう語った。逮捕後ずっと一人でいる中で、自分が誰かに信じてもらおうと思ったら、自分が先に100%相手を信じればいいということを学んだと。だから自分は、初めて会った時から上田さんを信じていたのだ、と。
今西さんの言葉から、聖書の中のイエスを思い起こした人がいるかもしれない。イエスも「先に信じた」人だった。
作品には、医学関連の専門用語がたびたび出てくる。弁護士の言葉が聞き取りにくいと感じた場面もあった。だが、SBSに関する用語を図解した過去のテレビ番組の画面が挿入されるなど、随所に手がかりもあるので、諦めずに話を追ってほしい。自身の〝正義〟が揺さぶられる中に、浮かび上がるものがあるはずだ。
9月20日から東京・ポレポレ東中野、大阪・第七藝術劇場、京都・京都シネマ、兵庫・元町映画館にて公開、ほか全国順次公開。問合せは、配給・宣伝 東風(info@tongpoo-films.jp)へ。
