教皇フランシスコのメッセージが分かる 映画・記録映画5選

 教皇フランシスコは、在位12年間でカトリック教会を劇的に改革し、私たちにその遺志を引き継ぐべく多くの〝宿題〟を残して旅立った。貧困問題の解決、移住者や難民の受け入れ、性虐待に加担した聖職者への厳罰と被害者の救済など、一人一人の命を大切にする教会、そして社会の実現を訴え続けた。そのメッセージの一端が分かる映像を幾つか紹介する。
 5月2日から東京のシネ・リーブル池袋で緊急追悼上映が決まった映画『ローマ法王になる日まで』(2015年)。ホルヘ・マリオ・ベルゴリオ青年が、教皇フランシスコになるまでの激動の半生を描いた実話だ。母国アルゼンチンでは1976年から83年まで、軍事独裁政権が続いた。教会は組織を守るために政権に〝妥協〟。一方、自由と正義を求め続けた司祭たちは銃殺され、反政府の嫌疑をかけられた信者たちは生きたまま飛行機から川へと投げ落とされた。ベルゴリオは、反政府運動に関わった青年を神学校にかくまい、また大統領に直訴し、海軍大将を〝脅す〟など、人々を守るために〝最善〟を尽くす。だが、友人らが次々と殺害・拷問される度に、南米イエズス会の管区長だったベルゴリオは、自分の判断が正しかったのかと苦悩する。本作は、ダニエーレ・ルケッティ監督が「等身大の人物像に近付けるように徹底的に現地取材をして制作」した。〝改革派〟と呼ばれた教皇フランシスコの原点が分かる。
 このほか、民間の動画配信サービスでは、世界各国を飛び回っていた教皇の映像やインタビューを収めた作品を見ることができる。
 Disney+(ディズニープラス)で配信中のドキュメンタリー『ローマ法王のアンサー』(2023年)は、宗教や文化も違うさまざまな背景を持つ10人の若者たちが教皇フランシスコと本音で対話をする。若者たちの疑問は率直で辛辣(しんらつ)だ。
 「人々は神より教会に失望しているようです」
 「教会には偽善が多い」
 「教会は、中絶した女性を『人殺し』と攻撃するけど、まずは女性の悲しみに寄り添うべきでは?」
 「なぜ女性は司祭になれないの?」などなど。
 ある若者は、「なぜ教会で出世する人がいるんですか?」と質問。
 教皇のアンサー(答え)はこうだ。
 「人間だからさ。神父は〝羊飼い〟だが、そのことを忘れると国家の聖職者になってしまう」
教皇フランシスコと対話をした10人の中には、移住先で差別を受けた若者や、カトリック学校で性虐待を受けた若者もいる。彼らが泣きながら訴える心の叫びに、教皇はどう答えるのだろうか。
 またU-NEXT(ユーネクスト)とPrime Video(プライムビデオ)ではドキュメンタリー映画『旅するローマ教皇』(2022年)を見ることができる。作品は大勢の難民を乗せた船が地中海で難破した事件から始まる。イタリア最南端のランペドゥーサ島で地中海を見つめながら悲痛な面持ちで祈りをささげる教皇フランシスコは、人の死に何も感じない「無関心」の文化に警鐘を鳴らす。欧州、中東、アフリカ、米国、そして日本で発信した教皇のことばは魂を揺さぶる。
 Netflix(ネットフリックス)では、30歳以下のフィルム制作者が70歳以上の人々に1年かけてインタビューをしたドキュメンタリーシリーズ「賢人たちと教皇フランシスコ―未来へ託す人生の言葉―」(2021年)を配信中。「愛」「夢」「苦闘」「仕事」をテーマにした全4話で、教皇フランシスコや、映画監督マーティン・スコセッシら人生の先輩たちが自らの思いを語る。そのほか、映画監督ヴィム・ヴェンダースがフランシスコに密着したドキュメンタリー映画『ローマ法王フランシスコ』(2018年)もある。武器ビジネスで潤っている米国で、教皇が「なぜ権力者に殺傷力のある武器を売るのか? それはお金のためです。武器の売買をやめさせましょう」と連邦議会議員たちに訴える場面は圧巻だ。
 教皇フランシスコが私たちに与えた数々の〝宿題〟。私たちはどのような答えを出していくのか。一人一人が〝宿題〟に真摯(しんし)に向き合う機会にしてみてはどうだろうか。

映画『ローマ法王になる日まで』©TAODUE SRL 2015
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