【バチカン9月18日CNS】教皇レオ14世は、人々が仮想空間で教皇と会えるようにAI(人工知能)で生成した「仮想教皇」をつくりたいという提案を受けて、とても怖くなったと率直に語る。
「アバター(オンライン上の分身)で表すべきではない人物がいるとすれば、教皇はリストの上の方に挙がると思います」と教皇は、カトリック系オンラインニュース「クラックス」のエリーズ・アレン記者によるインタビューで答えていた。
アレン記者が7月30日に行ったインタビューのこの部分は、9月18日にペンギン・ペルー社が刊行した書籍「教皇レオ14世―世界市民・21世紀の宣教師」のスペイン語版の最終章に載っている。インタビューの全文が英語とスペイン語で記者団に配布された。
5月上旬の教皇選出直後から、AIによって起こる可能性のある問題について、はっきりと懸念を表明してきたレオ14世は、その根拠について具体的に例を挙げた。
「最近ある人から、仮想空間の私を創る許可を欲しいという申し入れがありました。そのウェブサイトを訪れる誰でも、『教皇』と個人的に謁見できるようにするのだそうです」と教皇レオはアレン記者に語った。「このAI教皇は、その人たちの質問に答えるのだと言うので、私は答えました。『それを許可することはできません』」
人間の創造性は素晴らしくもあり、AIは既に幾つかの分野でその有用性を証明している一方で、「そこには危険も伴うのです。偽物の世界をつくり上げることもできるので、何が真実なのか分からなくなってしまうからです」と教皇は説明する。
AIが奪う人間の尊厳と適正な雇用
教皇の懸念の中でも中心的なものは、AIが人間の尊厳や職業に及ぼす影響だという。
「私たちの人生に意味を与えるのはAIではありません。人間同士の出会いなのです。互いに共にいて、関係性を築き上げて、人間関係の中で神の現存を見いだすことができるからです」
「危険なのは、デジタル世界が一人歩きして、私たちが駒のようになるか、脇に追いやられることです」と教皇は指摘し、そのことは特に雇用についていえると付け加えた。
「人間の尊厳は、私たちが携わる仕事と非常に重要な関係があります」と教皇は説明を続ける。「私たちが与えられたたまものによって何かを生産し、世に何かを提供することで生計を立てているという事実が」人間の尊厳のしるしだと教皇は強調する。
空虚で冷たい科学が人類に与える損害
教皇レオ14世は、ある危機が持ち上がっていると考えていて、それは最新の情報通信技術とAIによって人々が満足のいく仕事が得られなくなっていることだと説明する。
「私たちが世界全体を自動化してしまい、ほんの一握りの人々だけが、ただ生きていくだけでなく良い暮らしをして、意味のある人生を送るための手段を得るようになってしまえば、そこには大きな問題が起こってきます。いずれ起こってしまうと思われるとても大きな問題です」と教皇は危惧を表す。
「そのことがレオという名前を選ぶ上で、私の心の中にあった問題の一つだったのです」と教皇は振り返る。教皇の選択には、19世紀までに起こった産業革命によって持ち上がった職業と労働者の権利の問題を扱った回勅『レールム・ノバールム』を著した教皇レオ13世をたたえる意図があった。
「教会は技術の進歩に反対するものではありません」と教皇は強調しつつも、信仰と理性、科学と信仰の関係を正しく維持することの必要性を指摘する。
「私が考えるには、その関係性を失うことで科学は空虚で冷たい抜け殻になり、人間のあるべき本性に多大な損害を与えてしまうことになるのです」と教皇レオ14世は警鐘を鳴らす。「そして、人間らしい心は、技術の発展の中で失われてしまうでしょう。今現在、そうしたことが進んでしまっています」
