新教皇選出の時 バチカンに居合わせて ― 宮越俊光さん(日本カトリック典礼委員会)

 〈新教皇レオ14世の選出が発表された5月8日午後6時過ぎ(日本時間9日午前1時過ぎ)、バチカンのサンピエトロ広場に居合わせた宮越俊光さん(日本カトリック典礼委員会)に、現地で体験したその瞬間について、原稿を依頼した。〉

 サンピエトロ広場の大型モニターには、各国の国旗を振る群衆やシスティーナ礼拝堂に設置された煙突が映し出され、上空にはドローンが飛ばされて、新教皇選出の瞬間に向け準備万端整っていた。煙突近くに白いカモメが舞い降りる映像が流れると、白煙を待ち望む群衆からは期待を込めた歓声と拍手が湧き起こる。
 モニターにカモメの親子が映し出されていたまさにその時、当たり前だが何の前触れもなく煙突から白煙が静かに立ち上り、やがて広場全体から湧き起こる群衆の言葉にならない大歓声と拍手に合わせるかのように白煙も勢いを増し、サンピエトロ大聖堂の鐘が打ち鳴らされ、新教皇の選出が告げられた。

 5月7日までアッシジでの会議に参加した後、筆者は8日にローマに戻り、テルミニ駅近くのホテルにチェックインを済ませてから、まずはサンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂の教皇フランシスコの墓所を訪れた。墓前に立ち止まって祈ることはかなわなかったが感謝の気持ちを伝え、「午前の選挙では決まらなかったから取りあえずサンピエトロ広場に行ってみよう」と地下鉄に乗り込んだ。予想以上の混雑の中、オッタビアーノ駅で下車した多くの乗客と共に広場を目指す。広場に近づくにつれ警察官も多くなり、物々しい雰囲気が伝わってくる。
 広場の直前で左に大きく迂回(うかい)するよう指示され、広場に真っすぐ向かうコンチリアツィオーネ通りの途中で手荷物検査を受けた。さらに近づくと、広場を取り囲む柱廊のところで2度目の手荷物検査があった。そうして広場にたどり着き、強い西日を避けて煙突が見えるよう聖ペトロ大聖堂に向かって左側の位置まで移動し、ものの10分もたたないうちに白煙が上がったのである。
 発表を待つ間、近くにいたイタリア人は教皇選出を告げる「アンヌンツィオ・ボービス…(皆様にお知らせします…)」を真似して周囲の笑いを誘っていた。そして本物の「アンヌンツィオ・ボービス…」が告げられると、「パーパ・レオーネ(教皇レオ)! パーパ・レオーネ!」「ビーバ・イル・パーパ(教皇様万歳)!」の叫びが広場のあちらこちらから繰り返された。その後、バルコニーに現れた新教皇の最初のあいさつと祝福は周知のとおりである。大型モニターに映るレオ14世は、湧き起こる歓声と拍手に少し涙ぐんでいるようにも見えた。
 発表直後から新教皇の経歴はもちろん、保守派か改革派か、教皇フランシスコの路線を継承するのか、トランプ大統領に批判的な意見をもっているのか、などさまざまな情報が飛び交っている。今はそうした情報に踊らされることなく、先入観なしにレオ14世の言葉を聞き、どのようなカトリック教会を目指そうとしているのかを冷静に見つめる必要があるだろう。
 新教皇の姿がバルコニーの奥に消えると、聖ペトロ大聖堂の鐘の音が鳴り響く中を帰路につく群衆の晴れやかな笑顔があった。最初のあいさつで繰り返された「パーチェ(平和)」を象徴する皆の笑顔がいつまでも続くよう願いつつ広場を後にした。

5月8日、新教皇選出をサンピエトロ広場から世界に伝える報道陣
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