東京教区の社会司牧を促進する委員会「カリタス東京」は6月7日、東京・千代田区の麴町教会に「カリタスのとサポートセンター」センター長の片岡義博神父(名古屋教区)を迎え、「能登半島地震被災地報告会」を開催した。片岡神父は震災からの1年5カ月を振り返り、被災地が直面している困難や、官民の協働につながる新しい試みについて話した。東京教区内外から35人が参加した。
能登半島ならではの困難も
名古屋教区(松浦悟郎司教)は2024年1月1日に発生した能登半島地震の被災地を支援するために同月20日、金沢教会(金沢市)内にカリタスのとサポートセンターを開設した。
片岡神父は、能登半島という地域ならではの被災地支援、復旧の難しさに触れながら、これまでの活動を次のように振り返った。
まず能登半島は海に囲まれ、被災地への交通手段が限られている。しかも今回の震災では、金沢と能登半島を結び、「能登半島の大動脈」とも呼ばれてきた自動車専用道路「のと里山街道」が崩れ、当初は被災地への支援物資の搬入や支援を行う人らの移動も難航した(対面通行が全面再開したのは24年9月10日)。
加えて断水が長期化し、生活の復旧や支援活動を困難にした。例えば、県内でも能登半島中部に位置する七尾市以南の大半の地域の水道水は県南端に広がる白山(はくさん)から引かれているが、今回の地震で山裾の取水地から各地へ水を送る送水管が各地で破損し、取水地から100キロ以上離れた七尾市では、水道水を飲み水として利用できる状態まで復旧したのが発災の3カ月後だった。輪島市を含む奥能登では、水道の復旧が同年7月以降に及んだ地域もあった。
さらに、通常であれば災害発生から間もなく被災地域の社会福祉協議会(社協)に災害ボランティアセンターが設置されるが、能登半島地震では設置に1カ月以上かかった自治体もある。
そうした中、名古屋教区は被災教区としてサポートセンターの開設準備を進めながら、石川県の輪島教会(輪島市)と七尾教会(七尾市)に隣接する幼稚園の関係者を支援し始めた。そして自治体が設けた給水所まで水を受け取りに行くことができない人たちの存在を確認すると、「電話1本で」自宅まで生活用水を届ける活動を七尾で始め、後に輪島でも行った。
軽トラックに生活用水300リットルを詰めたポリタンクを積んで出かけ、利用者が用意した容器に給水し、必要に応じて家の中に運び入れたり飲料水を手渡したりした。トイレの利用後や洗面などに使う生活用水の提供は特に喜ばれ、この活動は自然と独居の高齢者の安否確認を含む地域の見守りにもなっていった。

金沢から七尾までの距離は70キロ、輪島までは110キロある。この報告会会場の麴町教会を起点に考えると、それらは60キロ先の鎌倉(神奈川県)や、110キロ先の熱海(静岡県)までの距離に相当すると片岡神父は説明する。当初は金沢から輪島まで片道4~5時間かかり、往復の移動時間を差し引くと現地での滞在時間はわずか数時間。できる活動が限られる中、片岡神父は無力さを感じながらもボランティアと共に被災地に通い続けたという。
このように被災者との関わりを重ねて実現した支援活動の一つが、断水していた七尾の聖母幼稚園前で毎週日曜日に手作りの温かい食事を提供する「じんのび食堂」だ。この活動は通水後の同年5月から「じんのびカフェ」になり、現在も震災で地域のコミュニティーを失った人らが顔を合わせ、お茶を飲みながら語り合う大切な居場所となっている。
サポートセンターの活動は、名古屋教区の信者有志のほか、羽咋(はくい)ベース(同県羽咋市、羽咋教会内)や、七尾ベース(七尾教会内)を利用する教会内外のボランティアによって続いてきた。現在は輪島と七尾でカフェ活動を行うほか、輪島で①仮設住宅コミュニティー支援(月1度)②山間部に住む高齢者の見守りを含めた戸別訪問(週1度)、そして③市中心部で被災者支援を続ける重蔵(じゅうぞう)神社の活動支援と、被災した同神社の整備補助―などを行っている。
以前は七尾市社協のボランティアセンターからの依頼で、がれきの運搬も行っていたが、現在は公費解体前の民家の片付けが主となっている。「処分するものの中には持ち主の方の思い出の詰まったものもたくさんあり、そんなエピソードをうかがいながら丁寧に片付けていく作業も大事な支援」だと片岡神父は言う。
奥能登・輪島の支援が「本格化」
今回の震災で被害の大きかった奥能登は高齢者が多く、過疎化の進んだ地域だ。災害対策には自分自身や家族で備える「自助」、地域で助け合う「共助」、行政が行う「公助」の三つが重要と言われるが、片岡神父は「税収が少なく、公助も少ない奥能登ではどれも難しい」と指摘した。
片岡神父はまた、高齢化の進んだ日本の教会がスタッフやボランティアを確保して被災地支援を続けていくことの難しさも痛感していると語り、教会の課題として「教会外との連携」を挙げた。そして他の支援団体も働き手の確保が課題となる中で今年5月、輪島でも行政、民間の支援団体や組織の連携で災害対応に強いまちづくりを進めるために「輪島支援協働センター」が始動し、さらにサポートセンターも参加する同協働センターによって、7月には民間災害ボランティアセンターも発足する予定だと紹介した。
このように輪島で支援活動が「本格化」する中、地震で崩れた輪島教会の再建も進み、ボランティアベースの機能も備えた2階建ての聖堂が9月末に竣工(しゅんこう)予定だ。輪島にベースができることで、奥能登でも七尾でもいっそう「地域に根差した関わりを続けることができる」と片岡神父は語り、これからも「(被災地と)共に歩んでいただきたい」と参加者に呼びかけた。
片岡神父は、七尾市田鶴浜(たづるはま)町の建具職人の家族が被災後に町の伝統工芸技術を生かして手作りした「組子(くみこ)ストラップ」(1500円〈送料別〉)を紹介した。ストラップの販売収益は、サポートセンターが協働している七尾市の民間災害ボランティアセンターの活動資金に充てられる。注文はこちらから。
