日本カトリック正義と平和 全国集会シンポジウムと九つの分科会で平和の道を探る

 42回目となる「日本カトリック正義と平和 全国集会」が10月12、13日の2日間、仙台市の元寺小路(もとてらこうじ)教会を主会場に行われた。福島の原発事故や沖縄の米軍基地、パレスチナやウクライナで起きている虐殺、技能実習制度などのさまざまな社会問題を解決するための活動に関わる司祭、修道者、信徒ら200人以上が集い、うち21人は韓国から参加した。全国集会前日の11日には福島、岩手、宮城でのフィールドワークも行われ、被災地の人々との交流もあった。

 子孫のために何ができるのか

 初日は基調講演とシンポジウムが行われた。
 幸田和生(かずお)名誉補佐司教(東京教区/カリタス南相馬代表理事)は基調講演で、2011年の東日本大震災で日本のカトリック教会がどのように動き始めたのかを説明し、これまでの復興支援活動の歩みを振り返った。そして平和の実現のためには、偽情報などに惑わされて誰かを差別することなく排外主義と闘うこと、長い時間をかけて対話を続けることの重要性を指摘した。
 シンポジウムでは、宮城県で脱原発の活動をしている館脇(たてわき)章宏さんと、写真家・フリーライターとしてチェルノブイリや福島の原発事故について伝えると共に、2023年には福島県南相馬市に原発事故をアートで伝える「おれたちの伝承館」を設立した中筋純さんが登壇。原発と向き合いながら、どのような未来を目指すべきかについて語った。
 館脇さんは、昨年末の女川原発の再稼働問題、国が原発回帰していることへの懸念、核廃棄物の処分問題などについて言及し、原発ができると、利権や立場の違いによってその地域の人々が分断されてしまうと指摘。ネイティブ・アメリカン(米国の先住民)たちは対等な立場で徹底した話し合いをすること、7代先の子孫のために何ができるのかを考える文化があることを紹介し「核のごみをずっと残し続けていいのか、ここから学ぶべきことがあるのではないでしょうか」と訴えた。
 中筋さんは、福島や宮城にできた公的な震災の伝承館に対し、「気持ちが反映される展示」をする「おれたちの伝承館」を設立した経緯を話した。

 「心のもやもやを分かってほしい」
沖縄の基地問題について話すウェイン・バーント司教(中央)

 2日目は、北仙台教会(仙台市)会場も含め九つの分科会が開かれた。
 分科会②では、ウェイン・バーント司教(那覇教区)が、沖縄の米軍と自衛隊の基地が住民や環境に及ぼす影響や、自衛隊の南西配備が進んでいる実態について話した。バーント司教は米国での少年時代、「ソ連は敵だ」と教えられて育ったが、成長した後にソ連の人は自分と同じ人間だと分かった体験がある。沖縄は琉球王国時代、中国と関係を築いていた歴史があり、米軍や自衛隊の基地がなければ沖縄の人々は中国を脅威だとは思わないのではないかと指摘した。

福島原発事故について話す高瀬つぎ子さん

 分科会③では、福島大学共生システム理工学類特任准教授の高瀬つぎ子さんが、福島の原発事故で放出された放射性物質による環境汚染と除染、原発廃炉作業の見通しと作業従事者の労働環境、発災後の避難の困難さなどについて、自ら参加した調査のデータなどを示しながら解説した。
 高瀬さんは、東京電力が2019年に作成した廃炉作業のロードマップ(計画表)を今後、見直す可能性があるという印象を持っていると話した。そして例えば政府が「原発回帰」と「減税」を組み合わせて実施することになった場合、東京に住んでいる人と福島に住んでいる人では、「温度差」が出るのではないかと、こう投げかけた。
 「福島の人もこのまま廃炉になって(原発の敷地が)更地になると思っている人はほとんどいないかもしれません。でもあの時、『(ロードマップで)30年後は大丈夫(廃炉完了)』だって言ったでしょ?という気持ちがあると思います。解決できない心のもやもやがあるのです。そういうことがあることを、遠くに住んでいる人にも分かっていただきたいのです」

 「一人の善良な人」として活動する

 全国集会に参加した柳谷(やなぎや)嘉子さん(80/北海道・苫小牧〈とまこまい〉教会)が正義と平和の活動に関わるようになったのはここ数年のことだが、そこでの学びを通じて視野が広がったと感じている。高瀬さんの話を聞いて、被災地に住む人たちには複雑な思いがあることを実感したという。
 聖心侍女修道会の塩谷惇子(しおや・じゅんこ)修道女(82)は、修道会として環境問題や平和活動に普段から関わっていると話す。大学の教壇にも立っていた塩谷修道女は、教え子の中には東京電力に勤務する親を持つ者もいたと言い「(原発は)難しい問題です。個人が悪いわけではないし、日本の政策です。今一番思っているのは(日本が)戦争をしない(ことが大切)ということです」と思いを述べた。
 18年間環境問題に取り組んできた韓国・スウォン教区のヤン・ギソク神父(54/CBCK〈韓国カトリック司教協議会〉生態環境委員会・総務、創造保全連帯代表)は、韓国の信徒らと共に全国集会に参加。11日のフィールドワークでは初めて岩手県大船渡市の被災地を巡り、被災者たちの苦労を実感したという。回勅『ラウダート・シ』の中の「希望を取り戻すのに必要とされるのは、実に一人の善良な人です」という言葉が好きだというヤン神父は、「前教皇フランシスコは、『善良な人』としての役割を果たすよう(私たちを)招いています。(今回共に集会に参加した)信徒たちには『神様が私を通して良いことを行う、と信じて活動するように』と伝えたいです」と話した。

派遣ミサを終えた参加者たち
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