「私たちには、いのちの尊厳を守り抜く責務があります」
8月5日夕刻、広島市の世界平和記念聖堂でささげられたミサの説教で、菊地功枢機卿(東京教区)はそう語った。
ミサには、米国、韓国、日本3カ国の司教合わせて24人と、信者ら約500人が参加していた。司教たちは直前まで「被爆者団体と米韓日有志司教の平和集会」において、原爆を巡る互いの加害と被害を見つめ、核兵器廃絶と平和実現への決意を新たにしていた(関連記事はこちら)。
菊地枢機卿は、人の心に深く刻み込まれた戦争の記憶が、「同じ過ち」を繰り返さないという誓いを新たにする原動力となってきた、と話し始めた。

菊地枢機卿自身は第2次世界大戦後に生まれたが、1995年、アフリカの旧ザイールで、約9千人を収容した難民キャンプで武装集団の襲撃を受け、死を覚悟する体験をした。「あの夜の惨劇と、爆発と銃撃音と、うめき声と、涙と、絶望感を、私は自分の記憶から消去することは決してできません」
それでも人は「さまざまな理由をつけては、いのちに対する暴力を肯定する誘惑」に駆られる。その弱さに対して、前教皇フランシスコが「ここ広島で、力強く挑戦状を突き付けました」と菊地枢機卿は続け、前教皇の次の言葉等を引用した。「原子力の戦争目的の使用は、倫理に反します。核兵器の所有は、それ自体が倫理に反しています」
菊地枢機卿は、日本カトリック司教団が戦後80年に当たり今年6月に出した平和メッセージの中で日本政府が「核兵器禁止条約」を署名・批准することを強く求めたことも紹介した。
このミサでは、福音書から「平和を実現する人々は、幸いである」という一節を含むマタイ5章の山上の説教の箇所が朗読された。
「平和を実現する人々。義のために迫害される人々」を幸いだと言う主の言葉を、夢物語にするのか現実とするのかは「私たちの決断です」と菊地枢機卿は話した。
最後に菊地枢機卿は「いのちには神の愛が注ぎ込まれています」と述べ、「ですから私たちには、いのちの尊厳を守り抜く責務があります。たまものであるいのちを守るのは、私たちの信仰における決断です。平和を確立するための道です」と結んだ。
このミサの初めに、駐日教皇庁大使フランシスコ・エスカランテ・モリーナ大司教が、被爆80年に当たり教皇レオ14世から送られたメッセージを英語で読み上げた(関連記事はこちら)。
ミサの動画は、広島教区のウェブサイト「動画コーナー」で視聴できる。
