被爆から80年の今年、米国、韓国、日本の司教有志と被爆者団体の代表者が8月5日、核兵器廃絶に向けた協働を目指して広島で平和集会を開いた。
この「被爆者団体と米韓日有志司教の平和集会」は、広島市のエリザベト音楽大学を会場として開かれ、最後に「すべてのいのちを守るための連帯」を目指す共同声明を発表した。集会には、この声明に署名した3カ国の司教と被爆者団体代表ら26人と、信者や日米の大学生ら約300人が参加した。
共同声明に賛同署名したのは、米国からシカゴ教区のブレーズ・スーピッチ枢機卿ら4人の司教、韓国からインチョン教区のチョン・シンチョル司教ら3人の司教、日本からは司教協議会会長の菊地功枢機卿(東京教区)はじめ11人の司教と髙見三明名誉大司教(長崎教区)。そして六つの被爆者団体の代表者ら7人が署名した。(声明は広島教区ウェブサイトに公開予定)
米国の司教 核兵器のない未来に「責任」
集会では、3カ国の司教と被爆者団体代表、合わせて9人が提言を行った。
その一人、米国サンタフェ教区のジョン・ウェスター大司教は、同教区が核兵器のない未来の実現に「特別な責任」を負っていると話す。教区が管轄するニューメキシコ州に、広島と長崎に落とされた原爆を開発・製造したロスアラモス国立研究所や、米国内最大の核弾頭貯蔵施設である空軍基地が存在するためだ。
ロスアラモス国立研究所は今日でも核兵器に関わる生産・開発を続けており、多大な税金を投入して「核兵器恒久化」とも言える計画を進めていると同大司教は話す。しかもロスアラモス郡は億万長者の割合が全米一高いが、同郡があるニューメキシコ州は、貧困層の子どもの割合など多くの社会経済指標で常に最下位にあり、兵器開発につぎ込まれた資金は貧しい人に何の恩恵ももたらしていない。
この状況の中で、「核兵器を世界から排除できると考える私たちを、ナイーブ(未熟な世間知らず)だと言う人々も必ずいるでしょう」と同大司教は話す。「しかし、本当にナイーブなのは誰でしょうか。1962年のキューバ危機の時に国防長官を務めたロバート・マクナマラは、人類は運によってのみ生き残ったと述べています。(中略)核兵器の歴史は、危機一髪、誤算、事故に満ちています。(中略)核兵器が存在する限り、人類は将来も生き残ることができると考えることは、最もナイーブな考えではないでしょうか」。
ウェスター大司教は、サンタフェ教区とニューメキシコ州、全ての米国の人々に向けて司牧書簡を発表し、核軍縮のための対話に参加し、課題に取り組むよう呼びかけている。
平和実現を諦めない 松浦司教
松浦悟郎司教(名古屋教区)は、「人間はどこまで残酷になれるのでしょうか」と問いかける。そして武器開発自体が人間の残酷さの表れであり、「原爆はまさにその頂点と言える殺りく兵器なのです。武器製造の本質はいかに安く、簡単に多くの人を殺せるかについて競って研究、開発することにあります」と続けた。
松浦司教はまた新型兵器を最初に使う時には〝実験の要素〟が伴うことも語り、米国が最初から広島のウラン型と長崎のプルトニウム型を「2発でワンセット」として投下した意味や、投下後に殺傷能力の詳しい結果分析が行われた現実にも言及した。
一方、当時日本も原爆開発を急ぎ、使用を考えていた事実を指摘。また原爆投下時の広島、長崎には、日本人だけでなく朝鮮半島、台湾、中国大陸から来た人たち、米兵捕虜など多くの外国人もいたことに目を向け、韓国人被爆者の碑を1999年まで広島の平和記念公園に入れなかったことを「恥ずかしいことでした」と振り返った。
最後に松浦司教は平和実現を「諦めない」大切さを強調した。「実は高校生たちが諦めていません」と、長崎から始まった高校生1万人署名活動の例を挙げた。高校生が掲げた「ビリョクだけどムリョクじゃない」というスローガンに「希望のしるしがあります」と述べ、彼らと共に声を上げ核廃絶と平和実現のために力を尽くしたいと話した。

韓国のインチョン(仁川)教区から参加したチョン・シンチョル司教は、韓国の教会から3人の司教が初めて集いに招かれたことに感謝を表した。「平和は武器によって築かれるものではありません。武器を捨て、対話を行うことによって、相互の信頼関係から芽生えるものです」と提言した。
韓国原爆被害者対策特別委員会委員長のコン・ジュノ(権俊五)さんは、被爆者は日本人だけではないことを改めて訴えた。「私たち朝鮮半島出身の(在日の)被爆者、在韓の被爆者、いまだに支援も何もされていない朝鮮民主主義人民共和国の被爆者、台湾、東南アジアの被爆者の方、たくさんの被爆者の方がおられます」。そして日本や韓国のように被爆者がたくさんいる国が、「もっと声を大にして、核兵器のない世界をつくるという気概をもって闘い抜いていかなければならない」と話した。
「ここにおいでの、若い世代も含めた皆さんに、1日も早く核兵器のない世界のために戦っていくことをお願いし、手を携えて頑張っていきたい。そういう思いを今日、新たにしたところです」
集会ではほかに、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)のノーベル平和賞受賞を祝い、駐日教皇庁大使フランシスコ・エスカランテ・モリーナ大司教が、歴代の教皇と教皇庁が一貫して核兵器を拒否する立場に立ってきたことを具体的に紹介している。
集会の様子は広島教区のウェブサイト「動画コーナー」で視聴できる(集会の前後半に分かれて掲載。一部録画されていない部分がある)。

