ドキュメンタリー映画『教誨師と死刑囚』製作中 坂口香津美(かつみ)監督に聞く

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ドキュメンタリー映画『教誨師と死刑囚』製作中 坂口香津美(かつみ)監督に聞く

 長年、死刑囚の教誨(きょうかい)を続けているハビエル・ガラルダ神父(94/イエズス会)に着目したドキュメンタリー映画、『教誨師と死刑囚』の制作が進んでいる。
 制作するのは、被爆者を描いた『夏の祈り』(2012年)のほか、自死遺族、児童養護施設の子どもなど、さまざまな人々の人生に目を向けて作品を発表してきた坂口香津美(かつみ)監督。坂口監督は6年前、ガラルダ神父のインタビュー記事を読み、死刑制度に初めて正面から向き合うようになったという。
 「改心した人間を殺すこと」は正しいのか――。取材を重ねる中で抱くようになった疑問を観客と共有し、実情の見えにくい死刑制度について考えるきっかけを提供したいと坂口監督は話す。

 なぜ日本にはできないのか?

 東京・麴町教会で協力司祭を務めるガラルダ神父は、これまで32年間、教誨師を続けてきた。
 全国教誨師連盟のウェブサイトによれば、教誨とは、全国の刑務所、拘置所、少年院等の矯正施設で、死刑確定者、受刑者、非行少年等の被収容者からの願い出に対し、各教宗派の教義に基づき、徳性を涵(かん)養し、人間性の回復を図る働きかけを行うことを指すという。この活動を民間ボランティアとして無償で行っている宗教家を教誨師と呼ぶ。
 ガラルダ神父は1994年から東京・府中刑務所で、主に外国人受刑者の教誨師を務めた。2000年からは東京拘置所の教誨師として、計5人の死刑囚と教誨を続けた。その間に2人の刑が執行され、2人は病死した。現在、男性死刑囚1人と月1回、30分間の面会を続けている。
 ガラルダ神父の教誨を映画化するきっかけについて、坂口監督は、こう話す。

坂口香津美監督

 「6年ほど前、新聞のインタビュー記事でガラルダ先生(神父)について読んで、稲妻に打たれたような衝撃を受けました。死刑囚の教誨を行う宗教家は他にもいますが、死刑のない国(スペイン)で生まれ育ちながら日本で長年、日本人の死刑囚との教誨を続けている。『そこには一体、どのような思いがあるのだろうか?』と思ったのです。後に、先生が来日した当時のスペインはまだ死刑存置国であったことを知ったのですが」
 現在、世界は死刑廃止の流れの中にあり、既に大半の国が死刑を廃止。先進諸国の中で、実際に死刑を執行している国は日本や米国など少数だ。その日本は国民の8割が死刑を支持していると言われているが、死刑や死刑囚の実態について国が公開する情報は極めて限られているのが現状だ。
 坂口監督は、かつて死刑について、強い関心はなかった。だが記事を読んでガラルダ神父を訪ねるようになり、ガラルダ神父への関心に突き動かされるように映画の制作に着手した。そんな中、学生時代にテレビで見た北欧の受刑者の生活が心に浮かぶ。
 「日本の受刑者は、一度刑務所に入ると釈放されるまで外出することは許されません。しかし受刑者の再犯率がひときわ低い北欧では、違いました」。その番組では、日本では死刑に相当するような殺人を犯した受刑者が朝、刑務所を出ると学校で子どもに勉強を教え、夕方に刑務所に戻るという生活をしていた。
 「なぜ北欧の刑務所にはそれができて、日本はできないのか。人生経験の少ない私は、その時はその疑問を未消化のまま飲み込んでしまいました。その疑問が再び現れたのが本作を撮り始めてからで、世界の死刑制度を調べるうちに、死刑存置の日本の特異性に気づきました」
 だが北欧を含めた欧州の死刑再度の廃止の流れに、「144年間も死刑が続く日本が参加できるかどうかは分からない、というのが正直な気持ちです」。

 死刑を待つ「友達」と共に

 日本では、特に所内の「死刑囚の教誨の現場」を撮影することは許されていない。そのため、坂口監督はガラルダ神父の撮影を死刑囚との面会直後、東京拘置所の一室で行うなど工夫した。やがて「教誨の場面が目に浮かぶようになってきた」という。
 受刑者が家族など訪問者と接見(一般面会)する際は、いわゆるアクリル板越しでの会話になる。刑務官の立ち合いが付き、時間制限も厳しい。だが教誨はそれとは別の部屋で行われ、教誨師と死刑囚は二人で30分間、自由に話すことが許されている。
 ガラルダ神父は、自身が教誨を行う死刑囚を「友達」と呼んで会いに行く。ガラルダ神父によれば、「一緒にいることが楽しく、有意義」な存在だからだ。その友人は哲学が好きで、読書家でもある。
 「彼とはいろいろな話をして助け合い、分かち合っています」。ナチスの収容所から生還した精神科医ビクトール・フランクルの『夜と霧』を読んだ後は、「自由がなくても、生きる意味を選ぶことはできます」と、気付きを分かち合ってくれたという。
 面会直後のガラルダ神父の言葉や表情からは、刑執行までの限られた時間に「死刑囚と共有した濃密な心の交流の証し」が、「体温のように」温かみをもって感じられたと坂口監督は言う。
 「その繊細な精神性あればこそ、26年間、死刑囚から信頼され、向き合ってこられたのではないかと思います」

東京拘置所での撮影

 一方、ガラルダ神父は、その死刑囚の友人とあらゆることを語り合い、分かち合う中で「(彼が)もう十分に改心しているのを感じ」ている。
 「私は死刑制度自体に『反対』という言い方はしません。でも死刑(の存続)は『残念』で、『死刑はなくしてほしい』」と静かに語った。

ハビエル・ガラルダ神父

 ガラルダ神父はまた、死刑廃止を望む理由として、「今その人(死刑囚)が誰をも攻撃していない」ことや、「いま社会に全然悪いことをしていない」ことなどを挙げている。
 坂口監督はこう話す。
 「(死刑囚は)独居房にいるのでそれは当然と言えるかもしれませんが、逮捕から時間がたっていることもあり、また教誨・面会の影響もあって、ガラルダ先生の目には明らかに(その死刑囚が)『改心している』と映っています。その変化した人間の命を絶つ行為が『正義』と言えるのか」。作品を通じ、見た人の心に「静かに問いかけたいと思います」。

 現在は撮影を終え、「死刑確定囚の心を支える教誨師の活動を撮影した、国内初のドキュメンタリー映画」として完成するべく編集作業を進めている。
 作品には「2010年、民主党政権時代に一度だけ撮影が許可された東京拘置所内の刑場や教誨室など貴重な映像も盛り込む予定。ただ、その映像を保有しているのはテレビ局のみ。そうした映像の使用料は高額で、「数十秒で数十万円になる」こともあるという。
 「実は予算不足で、恥ずかしながら、借りる映像の一つを20秒にするか25秒にするかで、迷っているところです」
 映画の完成に向け、4月17日までクラウドファンディングを実施している。クラウドファンディングへの協力は、こちら

東京・麴町教会の聖堂前で撮影中のハビエル
・ガラルダ神父(右)と坂口香津美監督(中)
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