生活困窮者支援フェスタ開催 「現場とつながる」体験を

 「貧しい人のための世界祈願日」(今年は11月16日)に合わせ、炊き出しの調理などが体験できるイベントが11月15日、東京・文京区の関口会館で開催され、約50人が参加した。
東京教区の「カリタス東京」と、さまざまな事情で生活に困っている人たちを支援している同教区内の団体・グループが共催した「生活困窮者支援フェスタ」。参加団体の一つ、支援歴30年になる「ほしのいえ」代表の中村訓子(のりこ)修道女(べリス・メルセス宣教修道女会)は、最近の炊き出しには、若い層の利用が増えていると話す。

 利用する人たちを思いながら

 今回、フェスタ(祭り)で調理を指導したのは、①東京・荒川区に拠点を置く「ほしのいえ」②千葉・松戸教会の「山谷おにぎりの会」③東京・田園調布教会の「多摩川支援の会TAMAちゃん」と、④千葉・西千葉教会の「枝の会」―の4団体。
 調理体験では3グループに分かれ、おにぎり・豚汁・カレーを60人分調理した。

60人分のカレーを煮込む、支援グループのスタッフと参加者たち

 ほしのいえが担当したおにぎりのグループから、参加者へのアドバイスが聞こえてきた。
 スタッフの一人は、参加者の前で清潔なトレイの上に塩をまくと、その上でにぎり飯を転がしながらこう説明した。「塩はこれくらい(が適量)。多すぎると、おじさん(利用者)から塩辛いと言われてしまうから、ちょっと難しいんです」
 スタッフはまた、おにぎり用にカットした焼きのりをそろえて重ねておき、その上に握ったおにぎりを軽く触れてすぐ、引き上げて見せた。このように、ごはんの粘着力で1枚だけ付いてくるのりを巻けば、作業がスムーズになる。参加者もスタッフに倣っておにぎりに塩を付け、のりを巻く作業を進めた。

くっついてきた焼きのりでおにぎりを巻いていく

 おにぎりの具は、種を抜いた梅干しにかつお節を混ぜた、ほしのいえの特製だ。種を抜くのは、「以前、種をかんでしまったおじさん(利用者)から『歯が痛くなる』と言われた」から。かつお節は、「カルシウムがとれるように」入れている。
 母親と参加した4歳の女の子は、ラップで包まれたご飯を一つずつ丹念に握り、皆から「上手ね!」と喜ばれていた。
 中村修道女は「おにぎり作りって、みんなでやると楽しいのよね!」と言い、目を細めた。

 「定点」で炊き出しする

 ほしのいえは毎週火曜日、近所の玉姫公園で炊き出しを行っている。最近、増えているのは「40代の比較的若い層」の利用だと中村修道女は話す。
 「炊き出しの前に『今から行っていいですか?』と電話をかけてくるので、『どなたでもどうぞ』と伝えます。そこで状況を聞くと、『仕事を続けるのが難しい』(無職)と言いますが、大抵は生活保護を受けていなくて、お金も住むところもありません」
 支援の現場では、コロナを機に、炊き出しをする団体が減った。ほしのいえが活動している山谷地区では、六つあった支援団体が半減し、最近ようやく回復してきたところだという。
 「年金や生活保護はもらっていても、コメの値段が上がり、手元の財布が乏しいと、まず自分(のお金)で食べることを端折(はしょ)って炊き出しへ行こうとするのですね。炊き出しが不定期開催だと食事にありつけなくなる人もいるので、私たちは〝定点〟でしています」

 民間を頼ろうとする「公」

 中村修道女はまた、「行政が生活保護を受給している人たちに、民間の炊き出しを利用するよう勧めている」実態があると、次のような例を挙げて指摘した。
 最近、「働くことができないので、炊き出しに行きたい」と、ほしのいえに電話をした人がいた。生活保護を受けている人からだった。
 「驚きましたよ。だって、交通費がないので歩いて来ると言うし、(山谷まで)相当時間がかかりますから。しかも、炊き出しの情報を役所から聞いたと言うのです。だから翌日、役所の担当者に電話をして、『(窓口での)現金支給が無理なのは分かりますが、一日乗車券を渡すことはできないのでしょうか?』と話しました。そうしたら、役所の人が謝りましたよ」
 ほしのいえをはじめ、民間の支援団体は、それぞれ寄付を集めて自前の資金で支援している。「本来、行政がするべき支援を、民間の私たちが自前でやっている。しかもその支援に『公』が頼ろうとする。それを私は怒っているんです」(中村修道女)
 生活に困窮する人たちの状況は、悪化してもいる。「昔は、野宿者も仕事の後の乾杯の時、仕事をしていない人におごってあげるなど、人のつながりがありました」。だが今、ネットカフェ難民になった40代の人らは、仕事を各自インターネットで探している。つまり「他者とのつながりがなく、孤立してしまって」いるという。
 教会として大切なのは、仕事や食事に困った人や野宿者と「どう関わるかだと思います」と中村修道女は話していた。

 共に体験し、学び、祈る

 前教皇フランシスコは2017年、毎年11月の年間第33主日(「王であるキリスト」の祭日の前の主日)を「貧しい人のための世界祈願日」に制定した。
 カリタス東京の田所功さんによれば、このフェスタは支援団体だけでなく、支援活動に関心のある人が誰でも参加できるよう企画され、昨年から始まった。
 今年も前回と同様、炊き出しの調理体験と試食会、各団体の活動紹介や物品頒布を行った。また、NPO法人北関東医療相談会(事務局・さいたま市)理事の長澤正隆さん(さいたま教区終身助祭)が「すべての命を守る~神はすべての人の救いのために『貧しい人』の側に立つ」をテーマに講演した。最後に、小池亮太神父(カリタス東京常任委員長/東京教区)司式により「貧しい人のための世界祈願日ミサ」が東京カテドラル聖マリア大聖堂でささげられた。

フェスタでは、NPO法人北関東医療相談会も活動紹介を行った
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