公益財団法人庭野平和財団(名誉会長・庭野日鑛〈にちこう〉/理事長・庭野浩士〈ひろし〉)は今年3月、第3回庭野平和賞奨励賞を2組の個人・団体に贈呈することを決定した。受賞したのはコロンビアの人権擁護活動家のエリサベット・モレーノ・バルコ(通称・チャバ)さんと、タイの人権擁護のための弁護士組織「ムスリム弁護士センター」。
同賞は、宗教的精神に基づく平和のための活動と研究を通して、人々の生活にとって身近で具体的な課題に取り組み、人々の幸福と平和な社会を構築するための活動に功績を上げている個人、または団体を表彰するとともに、さらなる発展を奨励することを目的としている。
同財団の招きによりチャバさんが来日し、4月12日、東京・杉並区の立正佼成会法輪閣大ホールで贈呈式が行われた。受賞者には賞状と賞金200万円が贈られた。
コロンビアでは50年以上内戦が続き、2016年に反体制武装ゲリラ組織と政府の和平合意が結ばれた。しかし同国西部のチョコ県では現在も内戦が続いている。
チャバさんは長期内戦による国内避難民の当事者でありながら、アフリカ系コロンビア人コミュニティーのリーダーとして、武装勢力との交渉や避難民の支援に取り組んできた。
贈呈式でチャバさんは「(受賞したことで)私たちの(平和を求める)声が人々にとって本当に大事だということ、そして私たちの『闘い』が国境を超えて広がるということも分かりました」と感謝を述べるとともに、「平和は皆が一緒に築こうと思った時に実現できるのです」とも話した。
平和は私たちの心から生まれる
贈呈式後、チャバさんは記者たちのインタビューに以下のように答えた。
チャバさんは1968年、貧しい家庭に生まれた。幼い頃に父親を亡くし、母親と6人のきょうだいが残される。チャバさんは生活のために働かなければならず、大人になるまで高等教育を受ける機会がなかった。「高校を卒業したのは、4人の子どもを産んで育て上げた後でした」
現在の活動の出発点は、同じコミュニティーに暮らす子どもたちの養育に関わったことだ。徐々にリーダー的存在となり、地域の問題解決を手伝うようになる。しかし2013年、武装勢力が入ってきたことで自身が国内避難民となり、別の地域に移らざるを得なくなった。「そこでは(避難してきた人々への)搾取や性暴力があり、子どもも若者も差別を受けていました。そのような状況でも、居場所を失うかもしれないからと黙って耐えようとする人もいたのです」。チャバさんは、「誰かが声を上げて皆の痛みを伝えなければならない」と立ち上がったのだ。それが現在の人権擁護活動につながっていく。
チャバさんは、女性の権利を守ることを活動の基本的柱にしているという。「アフリカ系コロンビア人には奴隷制度や迫害の歴史があり、権利も奪われてきましたが、女性は特に性暴力にさらされ、権利を否定されていたのです」
チャバさんはカトリック信者であり、カトリックの修道会の支援も受けて活動してきた。武装勢力でさえも、教会を尊敬していると言うが、それほど「教会は歴史的にコミュニティーを応援してくれる存在です。武装勢力との和平対話の場では、必ず教会が犠牲者の側に立って支えてくれて、平和構築の一つの役割を担ってくれています」。
チャバさんはこれからも、搾取されてきた人々の権利のために闘い続けると話し、こう訴えた。「戦争は物理的に世界を破壊するだけでなく、人の心を破壊します。経済的な権力が信仰や精神的な力を上回ってはいけないのです。平和は私たちの心から生まれます」
チャバさんは同月14日、東京・千代田区の上智大学・イベロアメリカ研究所主催の講演会にも登壇。学生ら73人が参加し、活発な質疑応答も行われた。講演会の終わりにチャバさんは、「過ちがあったとしても、お互いに、また自分自身と和解して進んでいくことでしか社会は変えられないのではないでしょうか」と語った。
