「建学の精神こそが前進のエネルギー源」 東北のカトリック学校2校 取り組みを分かち合う

 建学の精神に基づくカトリック教育と少子化などの難しい課題も多い学校経営の実際について、東北のカトリック学校2校の取り組みを共有し、共に考える研修会が5月24日、東京・千代田区の岐部ホールで開かれた。
 今回で5回目となる本研修会は、大学の研究者らを中心にカトリック教育の研究や実践に取り組むグループ「日本カトリック教育学会特別活動Ⅲ」が主催し、会場とオンライン合わせてカトリック学校の教職員ら50人余りが参加した。

 研修会の冒頭、清泉大学(設立母体・聖心侍女修道会/長野市)の稲葉景教授が、日本のカトリック大学の変遷を振り返った。今年は日本カトリック大学連盟の創立50周年に当たり、稲葉教授らは今年3月から、過去50年間のカトリック大学・短期大学の推移について調査をしており、その中間報告の一部を紹介した。
 カトリック大学・短大の数はピーク時の1996年には43校(17大学・26短大)だったが、募集停止の大学・短大があり、今後は少なくとも26校(18大学・8短大)に減少する見込みだという。カトリック教育に携わる司祭・修道者の数は高齢化に伴い年々減少しているものの、理事長職については現在でも約8割が大学・短大の設立母体の修道会の修道者や教区司祭が担っている。一方、学長を務める司祭・修道者の割合は年々減少し、信徒でない学長も増えている。稲葉教授は今後の課題として、大学と修道会・教区の連携の在り方、建学の精神を継承する後継者の養成や人材の確保などを挙げた。

 東北のカトリック学校2校のミッション

 続けて、学校法人コングレガシオン・ド・ノートルダム・桜の聖母学院(設立母体・コングレガシオン・ド・ノートルダム修道会/福島市)の西内みなみ理事長と、仙台白百合女子大学(設立母体・シャルトル聖パウロ修道女会/仙台市)学長の加藤美紀修道女が話題を提供した。
 昨年理事長に就任した西内理事長は、「フクシマでカトリック学校の灯を消さないために」と題して、同学院の取り組みを説明。同学院は、幼稚園、小学校、中学・高等学校、短期大学を運営する、福島県内唯一のカトリック学校だ。東日本大震災による原発事故の影響により特に幼稚園・小学校の子どもたちが県外に流出したことによる入学者確保の苦労や、コロナ禍での授業運営の難しさも経験したが、それらを乗り越えて学校を維持・運営してきた。
 少子化の影響に加え、福島県は全国でも若年女性人口の県外流出が多いこともあり、学校経営は厳しい状態が続いているが、西内理事長はこう話す。「(地域に)子どもたちがいて、そこに学び舎があることが地域住民の心の支えになり、にぎわいを創出して、そこに住み続けようという思いにつながるのです」
 同学院は昨年、「桜の聖母学院 花園リバイバル計画」を策定した。本計画では地域に開かれ、年齢に関係なく学ぶことのできる学校づくりや、中高を移転し、全ての学校を同じキャンパス内に集約することなどが計画されている。また修道院を基盤としたカトリックセンターの設置や近隣の二つの小教区との連携、宗教・学校行事に学院全体で取り組むことも構想に含まれている。
 入学者の獲得や資金面での難しさなど、乗り越えるべき課題は多いが、西内理事長は前教皇フランシスコの「希望は欺かない」という言葉を胸にこれからも諦めずに取り組むと話した。
 加藤学長は西内理事長同様、昨年から学長という責任ある立場に就任。「なんとしても大学を存続させること、しかも、ただ生き残るというのではなく、建学の精神を生かした大学運営によって、東北地方唯一の四年制カトリック大学としてのミッションを果たすことが修道女である学長の使命であり、仙台の地にある大学の存在意義であると考え、覚悟を決めました」
 学校法人上智学院(東京)の中長期計画を参考に、役職者だけでなく教職員らと広く対話を重ねた。そして社会課題に応じて建学の精神を生かすため、「いのちを守る」「共に生きる」「よりよい世界を」「明るい地球の未来へ」の四つのゴールのもと八つの課題を目指す「Sendai Shirayuri Goals(SSGs)」を策定。
 昨年4月から法に基づいて大学でも合理的配慮の提供が義務化されたことも踏まえ、ゴールの一つ「いのちを守る」を具現化したのが、今年4月に開設した「ウェルネスセンター」だ。学生たちは同センターで、心理カウンセラー、看護師、時には精神科医による包括的な心身のケアを受けることができるようになった。
 同大学は古代教父に基づくスクールモットー「一人ひとりのいのちが輝くために」に、パウロ書簡から「信・望・愛」を「Believe, Hope & Love」と加えて補強した。加藤学長は「原点回帰をして、ミッションの源泉に立ち帰ること、建学の精神こそが前進のエネルギー源になるのだと信じています」と話した。
第2部では約30人の会場参加者らが日ごろの悩みや取り組みを分かち合った。

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