ERSTと鹿児島教区 災害対応ワークショップを実施


 自然災害発生時、被災教区の初動対応を支援する「カリタスジャパンERST(イーアールエスティー)」は5月23日、鹿児島教区本部事務局(鹿児島市)で同教区との災害対応ワークショップを開催した。
 参加したのは、中野裕明司教(同教区)のほか教区の職員や教区カリタスの担当者、カトリック学校の教員など災害対応に関心を持つ信徒ら8人と、ERSTおよびカリタスジャパン事務局担当者の計17人。発災後の教区とERSTの役割や連携を確認した上で、同教区に大型台風が上陸した場合の初動対応を検討した。

 発災時、教区が迫られる対応とは

発災時の初動について検討する鹿児島教区の関
係者とカリタスジャパンERSTのメンバーら

 ワークショップでは、ERSTメンバーが「発災時に教区が迫られる対応」について次の4点を確認した。
 一つは①信徒の安否確認や、教会施設の被害状況など、教区事務局が独自に行う「教会関係の被災状況確認」。もう一つは②ERSTのサポートを受けて行うこともできる「地域の復興支援についての対応」だ。教区が行う②の対応には、「地域の被災状況調査」と併せ、支援をする・しないの決定を含む「教区による支援方針の決定」がある。
 ERSTは東日本大震災の経験から、大規模災害が発生すると教区事務所には国内外から支援の申し出など問い合わせの電話が「殺到」するとも説明。教区にはそれに対応する人手も時間もなく、混乱した中で③教区独自に募金を受け付けるかどうかを決定し、さらに④情報発信する―ことも必要になる。
 また募金については、カリタスジャパン事務局の山中努さんが次のように説明した。
 日本の教会は、被災教区への募金と、カリタスジャパンへの募金の使途を分けている。教区への募金は、教区の判断によって教会建物の修復や被災信徒への見舞金などに自由に使われる。一方、カリタスジャパンへの募金は教会外へも協力を呼びかけて集められるため、その使途も公共性のある支援活動に限られ、聖堂の修復や被災信徒への見舞金に使うことはできないという特徴がある。

 大型台風の上陸を想定

 グループワークでは、台風にたびたび襲われてきた鹿児島教区に大型台風が上陸した場合の風水害を想定し、災害サポート体制の構築と、平時からの備えについて検討した。参加者は、床上浸水や、がけ崩れ、停電、人的被害の発生に加え、交通網の遮断、電気・水道などライフラインの破壊も起きた状況下での初動対応について、それぞれ「自分にとって」という視点で意見交換した。
 ERSTメンバーは、東日本大震災後の日本の教会が「カトリック教会」と名乗るのではなく、「カリタス」の名で信者ではない人々と共に被災地支援を続けたことに言及。その実績は全国的に認知され、他の災害被災地でも「カリタス」と名乗ることによって、被災自治体との連携が円滑になっていると紹介した。
 長崎教会管区(長崎、福岡、大分、鹿児島、那覇の5教区)の災害対応担当者であり、ERSTメンバーの一人でもある片岡英和さんは、今後30年以内の発生率が80%程度とされる南海トラフ大地震によって「日本の半分が被害を受ける状況」を考えると、「災害対応を一教区で考える時代ではなくなっているように思える」と指摘した。
 霧島彬神父(同教区事務局長)はワークショップを振り返り、こう話した。
 「(グループワークなどでの)教区発表の準備に十分な時間が割けなかったことが悔やまれます。(発災時の初動対応を検討したが、)状況や周囲の人の動きなど起こり得る事態が想像しきれず、そこで自分が何をすべきかも具体的にイメージできていません。しかしERSTからの説明や参加者の発言から多くの示唆を受けたので、今後教区が行うべき災害対応について責任を持って勉強していきたいと感じました」

 ERSTとは

 2011年の東日本大震災後、日本の教会は教区や修道会の枠を超え、全カトリック教会で被災地支援を行った。その後も大雨や台風、地震など日本各地で自然災害が頻発していることを受け、今後も起こり得る災害に教会として対応するため、22年2月、司教協議会はカトリック中央協議会内に復興支援室を常設することを決定した。今年4月、ERSTは復興支援室からカリタスジャパンへ移管され、活動を続けている。現在のメンバーは、東日本大震災で復興支援を経験した司祭、信徒の6人。
 ERSTは司教団から任命を受けている。東日本大震災のような大規模災害に限らず、ERSTは中小規模も含む災害が発生した際、被災教区の要請を受けて現地に派遣され、災害対応が軌道に乗るまで最長3カ月間、被災教区のスタッフをサポートする。
 23年7月の秋田大雨災害で被災した新潟教区は、支援拠点(ベース)を立ち上げ、全国からボランティアを受け入れて支援活動を実施したが、ERSTはそうした支援方針を策定するために必要な被災状況の調査や支援活動で教区をサポートした。
 ERSTはまた、災害時の緊急支援のほか、各教区に出向いて災害対応ワークショップも開く。発災時に連携することになる教区職員らとの関係づくりも視野に、これまで広島、札幌、東京、長崎、大阪高松の5教区で実施した。

ワークショップの参加者たち
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