四旬節に聞く 受洗の物語 祈る前に「祈ってもらっていた」 加藤功次郎さん(茨城・下館教会)

 

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四旬節に聞く 受洗の物語 祈る前に「祈ってもらっていた」 
加藤功次郎さん(茨城・下館教会)

 カトリック教会は今、復活祭の準備期間「四旬節」の中にある。四旬節は古くから、復活祭に洗礼を受ける志願者の直前の準備期間と考えられてきたが、既に洗礼を受けた信者が自身の信仰を見つめ直す季節でもある。神は、どのように一人一人を信仰の道へと招かれるのか。
 薬物やアルコールなどの依存症を抱える人たちの回復施設、一般社団法人リカバリーハウス(茨城県石岡市)で責任者を務める加藤功次郎さん(43/茨城・下館教会)は、2025年のクリスマスに受洗した。きっかけは、自分が祈るよりも前に、既に「祈ってもらっている存在」だと司祭に言われ、心が「楽になった」ことだ。
 受洗の学びの中、それまで仲間と共に取り組んできた回復プログラムが信仰の土台になっていたことにも気付いたという。

リカバリーハウスの愛犬クロと加藤さん

 加藤さんは21年5月に東京・府中刑務所を出て、民間の薬物依存症回復施設「茨城ダルク」(茨城県結城市)に迎えられた。
 ダルクとの出会いは2年前にさかのぼる。加藤さんが薬物使用で逮捕され、拘置所にいた時だ。千葉に住む母親から自分のことを聞いた茨城ダルク代表の岩井喜代仁(きよひろ)さん(下館教会)が拘置所へ面会に来た。
 「初対面にもかかわらず、岩井さんは僕に『わしを手伝え』と言うんです。その時は『この人、何を言ってるんだろう?』と思いましたね」
 薬物依存症をはじめ、自分の感情をコントロールできない状態は続いた。以前逮捕された時に離婚し、妻も子どももいなかった。拘置所で、自分に「死ね」とささやき続ける幻聴と幻覚に苦しんだ。「わらをもすがる思い」だった。

 来て3カ月で亡くなった仲間

 ダルクの入寮者は毎日、「NA」(エヌエー)と呼ばれる米国発祥の自助グループの集まりに通い、「12ステップ」という回復プログラムに取り組む。
 茨城ダルクが通うNAの会場は6カ所。いずれも茨城県内の寺やキリスト教の教会だが、そのうち4カ所はカトリック教会(下館、つくば、土浦、水戸)だ。「カトリック教会が多いのは、岩井さんの話によれば、これまでダルクが助けを求めてきたのはカトリック教会が多かったからです」(加藤さん)
 現在、全国に64カ所あるダルクの創始者、近藤恒夫さん(前・日本ダルク代表)も、カトリック司祭のロイ・アッセンハイマー神父(ともに故人)と一緒にダルクを立ち上げた。
 だが茨城ダルクのメンバーがNAで教会を使う時間帯は夕方以降で、信徒との接点はほとんどない。そのため、加藤さんが教会からの依頼でバザーや教会の草取りを手伝ううちに信徒と仲良くなり、「ミサに来てみたら?」と声がかかっても、「ミサが何かも分からなかった」。
 そんな加藤さんを「教会へ」と導いた出来事の一つは、24年3月に出所し、同年6月に亡くなった仲間、Kさんの納骨式だ。
 Kさんはその年の正月に刑務所の中で体調を崩して肝臓がんの転移が判明し、医師から余命6カ月と宣告されていた。「刑務所から『それでも出所後に引き受けますか?』と確認されましたが、岩井さんはそうしました。茨城ダルクは、どんな人でも受け入れることにしていますから」
 当時、加藤さんは茨城ダルクの寮長だった。出所したKさんを車で迎えに行き、「自分がこの人を看取ることになるのだろう」と感じて関わり始めた。懸命に寄り添うが、Kさんは日々弱っていく。ある日トイレで吐血し、救急車で病院へ搬送される途中で息を引き取った。「宣告通り、本当に6カ月でした」。命のはかなさと、いとおしさが胸に迫った。
 Kさんの納骨式の時、ふと思った。
 「元やくざだったKさんは僕と同じように多くの人を苦しめてきたはずですが、最後は一人ではなかったと。お金のない人だったけれど、墓石に名前を刻んでもらえました。薬物依存症の自分は一日一日、薬物を使わない日を重ねていますが、依存症という病が治ることはありません。そんな自分も教会とつながっていたら、今後どのような人生になったとしても最後は一人にならず、受け入れてもらえるのではないかと思ったのです」

 心が楽になる感覚

 加藤さんは、当時仲良くなっていた信徒に受洗を考えてみたいと伝え、下館教会の本間研二神父(イエズス・マリアの聖心〈みこころ〉会)の下で聖書を学び始めた。驚いたのは、それまで自分が薬物を使わないために毎日続けてきた回復プログラムの12ステップが聖書理解の土台になっていたことだ。
 例えばステップ1は自分の無力さを「認め」、ステップ2は自分が理解している神(ハイヤーパワー)を「信じ」、ステップ3はその神に「委ねる」という段階を踏むものだが、そこに「カトリック教会の考え方、福音のキリストとのつながり」を感じた。
 「ハイヤーパワーは、聖霊と重なるように僕は感じます。12ステップに親しんでいたから、洗礼を受けたいと思えたのかもしれないと思うほどです」
 忘れられないのは、ステップ11との関連性だ。この段階ではハイヤーパワーとのつながりを深め、その意志を知る力を求めて祈る「祈りと黙想」を大切にする。ある日、加藤さんが本間神父に「祈り方が分からない」と伝えると、「まずあなたが祈られている存在だと思って(ほしい)」という思いがけない一言が返ってきた。
 「僕は『自分が、自分が』という思いが強かったので、その言葉をもらって心が楽になる感覚がありました。洗礼の準備に入りやすかった気がします」
 自分は他人の話を聞くのも、人を信用するのも苦手だと加藤さんは言う。だが本間神父の話を聞くうちに、ありのままの自分が受け入れられているのを心の深いところで感じ取った。自身がありのままの自分を見つめ、その自分について「正直に」話せるようになっていったという。
 「12ステップは、人は完璧でないことを教えてくれますが、カトリックにはゆるしに通じるものがあると感じてきました。僕らは自分を大切にしない生き方をして、さんざん人を苦しめてきた。でも神は罪の数を見ているわけではない、見ているのは愛の数だと。これからは、人を愛しなさいと言われる。そう言われてしまうと、もう自分にうそもつけなくなりますね」
 それまでの虚勢を張り、背伸びをする孤独な生き方から、ありのままの弱い者同士が手を取り合って生きていく道へ。生き方の転換があった。

 相談できる相手がいる

 洗礼に向け、フィリピン出身の代父以外にも複数の信徒が加藤さんの代父母を申し出た。洗礼式には母親も駆け付けた。
 「洗礼を受けても特に変わった感じはしませんが、受けた後に大勢の人が祝ってくれたことに、ちょっとびっくりしました。『自分の受洗は、おめでたいことなのかな?』と。そう思うのは自分の生き方からして、あまり人から『おめでとう』『ありがとう』と言われていないからかもしれません。でも自分が新しい道を歩み始めたことを、初対面の人も心から祝ってくれているのが分かりました」
 加藤さんは子どもの頃から「他者の期待に応えなければ」という強迫観念が強くあり、それが「生きづらさになっていた」と感じてきた。しかし今は、自分のどうしようもない部分について正直に相談できる相手がいる。ダルクだけでなく、教会にも。

本間研二神父(中央右)から洗礼を受けた加藤功次郎さん
(同左)と、加藤さんの母親、代父母、ダルクの仲間たち
(写真提供:加藤さん)
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