貧困と孤独、両方を癒やす 長崎「みんなの食堂」

 長崎市の西坂公園で3~4カ月に1度、日曜の午後開かれる「みんなの食堂」(以下、食堂)では、さまざまな理由で日々の生活に苦しんでいる人を支えることを目的に、食料・生活用品の配布や相談が行われている。
 食堂を主催している「長崎おとな食堂実行委員会」代表世話人の鳥巣(とりす)シオリさん(74/長崎・西町教会)と、共に活動している夫の洋次郎さん(72/同教会、NPO法人長崎ダルク・スタッフ)にこの活動の歩みや思いについて話を聞いた。

 きっかけはカトリック新聞

 食堂は2022年4月に始まり、今年6月に13回目を開いた。会場では250人分の手作り弁当と、つきたての餅やうどん、菓子などの食料、生理用品や衣料品などを配布し、医師や弁護士らから生活の相談を受けることができる相談コーナーも設置されている。開始前から長蛇の列ができ、250人分の弁当と物資は毎回15分でなくなってしまうという。
 シオリさんによれば、活動のきっかけはカトリック新聞で目にした1本の記事(2021年6月13日付号)だった。同年5月のゴールデンウィークに、東京の麴町教会で「大人食堂」が開かれ、コロナ禍の影響により、幅広い社会層に広がった生活困窮者を支援するさまざまな取り組みがあったことを知る。
 かねて生活困窮者支援に関心があったシオリさんは「コロナ(の影響で困っている人がいる状況)はどこでも一緒」だと感じた。長崎でも同様の活動ができないかと思い、日本CLC(クリスチャン・ライフ・コミュニティ)のメンバーや、同じ長崎県の五島出身の下窄(しもさこ)優美修道女(お告げのマリア修道会会長)など、知り合いに相談しながら準備を進めたのだという。
 現在は長崎おとな食堂実行委員会の他に、NPO法人やカトリックの修道会、ボランティアの市民らが協力し合って準備・運営している。

 支援をする側も受ける側もさまざま

 洋次郎さんは「(支援する側の)スタッフは『健常者』というイメージがあるかもしれませんが、心に悩みや病を抱えている人もいます。そういう人たちにとっても居場所になるようにしたいと思いました」と話す。
 洋次郎さんがスタッフとして関わるNPO法人長崎ダルクは、1回目から活動に参加し、ダルクの利用者らが会場設営や物資の運搬などに協力している。「(薬物依存からの回復を目指す)ダルクの利用者は、過去にしたことにとらわれるのではなく、これから先を見据えて一日一日を歩んでいる人たちで、地域の役に立てればという思いでやっています。『鳥巣さん、次いつやると?』と聞かれます。手伝うことを楽しみにしているんです」
 弁当を作っているのは、お告げのマリア修道会の修道女たちだ。同会本部修道院の大きな厨房で、250人分の調理をしている。イエスのカリタス修道女会とレデンプトリスチン修道会も、手作りの焼き菓子や食料を寄付。今年6月の開催では米代が足りなかったが、シオリさんが黙想会で知り合った人が、ハンセン病回復者らからの寄付を取りまとめて支援してくれたという。
 食堂の開催は、教会などにポスターの掲示をお願いするだけでなく、地元の新聞でも周知している。それを見た学生や市民がボランティアに来てくれるので、シオリさんは「一般市民が関心を持っていることが分かって『みんな優しい』と感動しました。世の中捨てたもんじゃないな」と感激したと話す。
食堂に支援を求めてくる人々について、洋次郎さんはこう感じている。
 「回数を重ねるうちに、経済的に困っていそうな人だけでなく、経済的には困っていないけれども何かしら心に闇があるような、孤立とか孤独とかと向き合っているのではないかと感じられる方が来るようになりました」
 スタッフらが午前9時ごろから集合し、準備していると、既に何人かが列をつくっている。「『そんな早く来て何すると(どうするの)。暑かとに(暑いのに)』などたわいもない会話を交わせるようになってきました」と洋次郎さんは話す。
 シオリさんは自死した人の遺族との交流があり、心の病を抱え、なかなか外出する機会がない人たちにも「来てみない?」と声掛けをしているという。
 西坂教会では、日曜の午後1時から主日のミサがあるので、ミサ後に食堂に顔を出す外国人もいる。洋次郎さんはフィリピン人の知り合いに、技能実習生で困っている人がいたら、食堂があることを伝えてもらうよう頼んでいるという。
 洋次郎さんは「貧困と隣り合わせにある孤立や孤独も合わせて見ていかないといい方向に進まない」と話す。食堂は、支援する人も受ける人もさまざまだ。シオリさんも洋次郎さんも、どんな人でも気楽に立ち寄れる場所にしたいと願って活動している。
 また洋次郎さんは信者として、自分を含むカトリック教会がもっと教会の外に出向いて行く共同体であってほしいとの思いも抱きながら活動をしていると話していた。

みんなの食堂の準備
(左手を挙げているのが鳥巣シオリさん)
 西坂公園を選んだ訳

 シオリさんがみんなの食堂の開催場所として、西坂公園を選んだのにはこんな理由がある。
 シオリさんはCLCの活動で教会ガイドのボランティアもしている。ある日、西坂公園そばの西坂教会で教会ガイドをした時のことだ。ある男性がシオリさんに「僕は幼少期をここで過ごして、この教会を見て『僕は絶対大きくなったら(西坂教会を設計した)今井兼次さんのような建築家になるんだ』と思っていたら、本当になりましたよ」と話したのだという。西坂教会は長崎市の景観重要建造物にも指定されている。西坂公園の後ろにある日本二十六聖人記念館も今井さんの設計によるもので、そこには戦後の日本を代表する彫刻家の一人である舟越保武(やすたけ)さんが制作した26聖人のブロンズ像もある。
 シオリさんは「ここに集まってくる子どもたちが舟越保武さんの彫刻を見て、今井さんが設計した教会を見て(その男性と同じように)将来(自分の)夢をかなえてくれないかな」との願いを込めたと話した。

 次回の「みんなの食堂」は10月19日(日)正午から午後2時まで、西坂公園で開催予定。問い合わせは、鳥巣シオリさん(090-9488-7931/tsuma-youji@mxc.cncm.ne.jp)まで。

みんなの食堂
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