今年2月まで教皇庁宣教事業の会長を務めていたエミリオ・ナッパ大司教(バチカン市国行政庁次官)が、3月23日から26日まで4日間、日本を訪れた。25日、都内で開かれた、ナッパ大司教とカテキスタ(要理教師)との集いに約40人が参加し、次世代への信仰の継承など、日本の教会の課題と挑戦について語り合った。ナッパ大司教による講演を通して、世界中で行われている福音宣教とのつながりも再確認した。
世界的ネットワークで宣教地を支援する
全世界の福音宣教は、バチカン省庁の一つである福音宣教省の下で進められている。世界には約3000の教区があるが、そのうち日本の15教区を含め、「宣教地」とされるアジア、アフリカ、オセアニアの1200教区については、福音宣教以外の複数の分野も福音宣教省の管轄下にある。その分野とは、司教の任命や、司祭の規律の問題と養成、奉献生活の会と使徒的生活の会に関する問題などだ。
教皇庁宣教事業は1922年、福音宣教省の一部署として設立された。「ミッシオ」とも呼ばれる同事業は、宣教を推進するための世界的ネットワークでもある。全世界のカトリック教会を通して祈りと献金を促進し、宣教地の教区に必要な経済的支援を行っている。
東京教区の「教区カテキスタ」と日本カテキスタ会の「教区カテキスタ」が集う
この日、カテキスタとの集いに参加したのは、①東京教区の「教区カテキスタ」②同教区の教皇庁宣教事業(ミッシオ東京)のスタッフ③日本カテキスタ会(NCK)の「教区カテキスタ」④アフリカ・マラウイで学校給食支援を行うNPO法人「せいぼジャパン」関係者のほか、宣教師や修道者だった。
集いは「聖霊の続唱」などの祈りで始まり、東京教区の教区カテキスタを担当している小西広志神父(フランシスコ会)の司会進行で進められた。
小西神父は、これまで共に集うことがなかったカテキスタと福音宣教を担う人々が一堂に会した「貴重な集い」だと語った。また、2021年から24年にかけて行われたシノドス(世界代表司教会議)第16回通常総会の「ともに歩む教会のため―交わり、参加、そして宣教」というテーマに沿って、東京教区の教区カテキスタについて紹介した。
現在、教区で養成を受けた60人が司教によってグループごとに小教区へ派遣され、入門講座を担当している。教区カテキスタは、小教区共同体と受洗希望者の「交わりをつくる」などの働きをしていると小西神父は語り、教区カテキスタは「サービス(奉仕活動)ではなく召命」だと強調した。外国出身者とその子どもたちへのカテケージスが必要になっている現状や、教区カテキスタの養成に、シノドスで用いられた「霊における会話」という分かち合いの手法を取り入れていることにも触れた。
生活を通じたカテケージス(要理教育)の可能性
ナッパ大司教は講演で、教皇庁宣教事業の前会長として「特別なお願いがある」と語り、あらゆる場面で「教会の社会教説(社会問題に関する教会の考え)を教えるのを忘れないでほしい」と呼びかけた。教会の社会教説が重要なのは、キリストによる全人類の救済を目指しながら、いかに福音的に社会生活を送るかを示す教えであるためだとナッパ大司教は説明した。禁教時代に信仰を守り抜いた日本の殉教者の存在にも触れながら、日本の教会でカテケージス(要理教育)を通して福音を伝えていくカテキスタらを励ました。
参加者の一人が、子どもの姿が見えない小教区でどのように信仰を継承したらいいかと質問すると、ナッパ大司教は「(次世代に信仰を伝える場は)教会だけではないと思いますよ」と、励ますように答えた。その一例として、教会から帰宅した後、子どもたちに教会で得た喜びを表現することの大切さを挙げ、生活を通じたカテケージスの可能性について話した。
集いの後半は、茶話会形式で行われた。同じ「教区カテキスタ」という名称であっても、奉仕の仕方が異なる東京教区の教区カテキスタと、NCKの教区カテキスタが、それぞれ直面している課題や展望について語り合う場面もあった。
ナッパ大司教は参加者との歓談後、全員に祝福を送り、集いを終えた。
喜びを表すことの大切さを感じた
この集いに招かれた日本カテキスタ会は、各教区で活動する教区カテキスタの集まりで、会員は現在、72人。これまで教皇庁宣教事業からの経済的援助を基に、年に2回公開講座を催してきたが、昨年初めて援助が打ち切られ、講座を1回に減らした。
NCK会長の武井利泰さん(群馬・藤岡教会)は、ナッパ大司教に援助の継続を求めようと集いに参加したが、講話でアフリカなど経済的に困難な地域での福音宣教の状況を知り、思いとどまったと、こう話した。
「公開講座には会員以外の方も全国から参加しているので、会員個人ができる範囲で経済的に支えながらでも続けたい。今日は、これまでもわずかながらしてきた海外での宣教活動の支援にも力を入れたいと、思いを新たにしました」
武井さんは、自身が所属するさいたま教区で教会学校を担当している信徒など、NCKの会員以外の人たちと地元で小さな集まりを持ち、信仰を継承していくための取り組みを始めようとしているとも話した。
横浜教区でカテキスタとして活動している中村祥子(しょうこ)さん(神奈川・雪ノ下教会)は、「ナッパ大司教様がずっとおっしゃっていたのは、キリスト者としてどう生きるかということ、喜びを表すことの大切さだったと思います。(信徒の高齢化など)困難な状況を覆すような奇跡や手品はないと、改めて厳しいことも言われましたが、それだけに、地道に、キリスト者として生きていくことの大切さを感じます」と振り返った。
日本の教皇庁宣教事業(J-MISSIO/ジェイ ミッシオ)代表の門間直輝神父(東京教区)は、集いの第一の収穫として、カテキスタ同士の交流の場があったことを挙げた。「日本の地には永遠のいのちに至る種がまかれている。私たちはこれを丁寧に育てていくことが求められているのだと思う」と話した。
ナッパ大司教は日本滞在中、長崎市の日本二十六聖人殉教者記念碑や、信徒発見の地(大浦天主堂)を訪れ、東京では宣教師や信徒らと宣教について対話した。アンドレア・レンボ東京教区補佐司教と行った対談では、身近な日本の殉教者や聖人を意識した生活が福音宣教につながる可能性について語った。対談は、近くJ-МISSIOのウェブサイトで公開予定。

リンク

J-МISSIO
https://j-missio.org/about/
日本カテキスタ会(NCK)
https://sites.google.com/view/catechists/ホーム