図書紹介 『ローマ教皇  伝統と革新のダイナミズム』 山本芳久 著

 今年4月に前教皇フランシスコが逝去し、翌月に新教皇が誕生したことは、日本でも日々、大きく報じられた。本書の著者、山本芳久氏(東京大学大学院教授/カトリック信者)も連日、マスメディアから取材を受けた。
 著者は、日本のメディアが「教皇」を取り上げる際、ほとんどが「核兵器」や「死刑」などの問題に焦点を当て、「宗教色を抜いた」形での報道になると指摘する。また教皇選挙(コンクラーベ)でも、メディアの関心の多くは、次期教皇の有力候補は誰か、その人物は「改革派」か「保守派」かという点に向けられた。これらについて著者は、キリスト教信者がごく少ない日本では「当然のことかもしれない」と受け入れる一方、その報道だけでは、人々が教皇について的確に理解することはできないとも述べる。
 本書は、教皇の言葉に触れる機会のない日本の人々に向けて書かれているが、カトリック信者にとっても十分に読み応えがある。

 本書はまず、米国トランプ政権が掲げた強硬な移民政策について、米国の副大統領が「キリスト教的な考え方」に基づいて支持したことを取り上げる。これに対する、教皇フランシスコの批判と、ロバート・フランシス・プレボスト枢機卿(後の教皇レオ14世)のSNS投稿について解説する。

次に、教皇選挙が始まる前、選挙に臨む枢機卿たちが開いた「総会」に目を向ける。この総会では、教会が直面する状況や問題点が分析され、今後の教会を導くべき方向性が多様な角度から提案された。この提案を基に米国のカトリックメディアが挙げた「次期教皇に求められる七つの優先課題」を一つ一つ読み、教皇レオ14世が選出された背景を考察する。

 さらに本書は、教皇フランシスコ、教皇レオ14世、教皇ベネディクト16世の言葉を読み解いていく。読み進めると「改革派」と「保守派」に色分けすることの浅薄さに気付かされる。歴代の教皇が現代世界を直視し、聖書とカトリック神学の伝統に深く根差した言葉を発信していること、また過去の教皇たちへの尊敬の上に、自身の使命と向き合っていることも浮かび上がる。 教皇は、「キリスト教二千年の伝統に支えられて、日々起きる様々な出来事に即しながらキリスト教の根本的なメッセージを語る」(本書12ページ)。本書はその教皇という存在について、カトリック信徒か否かを問わず理解を深められる1冊となっている。(文春新書/税込1155円)

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