世論調査の結果や世界の動向を踏まえ、日本の死刑制度を議論する公的な会議体(合議体)の設置をどう進めるかを考えるシンポジウムが4月8日、東京・千代田区の弁護士会館で行われた。日本弁護士連合会(以下・日弁連)が主催し、会場とオンラインで180人が参加した。
経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国のうち、日本のほかに死刑制度を存置しているのは、韓国と米国だけ。しかし韓国は1997年以降、死刑は執行されていない。また米国では、50州中23州で死刑が廃止されており、3州で死刑執行が停止されている。つまりOECD加盟国の中で、国家として死刑を執行しているのは日本だけだ。日弁連は2016年に「死刑制度の廃止を含む刑罰全体の改革を求める宣言」を採択している。
シンポジウムの冒頭に釜井景介弁護士が、内閣府が昨年実施した死刑制度に関する世論調査の結果を報告。「死刑制度の存廃」について「死刑もやむを得ない」と回答した人は8割に上った。しかしその中には、別の設問では「将来、状況が変われば廃止してもよい」、「終身刑を新たに導入した場合は廃止するほうがよい」と回答している人もいる。これらを含めると回答者全体の55%が死刑は廃止すべき、あるいは条件次第で廃止してもよいと考えていることが明らかになった。釜井弁護士は「この世論調査の結果は、死刑を廃止する上で、特段の支障にならないのではないか」と話した。
次の世代に手渡す刑事裁判制度を考える
続いて刑法の研究者の井田良(まこと)教授(中央大学法科大学院)は、「日本の死刑制度について考える懇話会」の報告書について説明した。同会は、日弁連の呼びかけに賛同する16人の委員で構成され、昨年11月に報告書を取りまとめた。
報告書は、日本の死刑制度と現在の運用の在り方には、放置・存続させることのできない問題点があるという基本的認識の下で作成された。報告書は、現行の死刑制度における以下の六つの検討ポイントを提示している。
① 死刑制度の維持が、日本の人権尊重・民主主義国家としてのイメージを損なっている。
② 裁判での誤判の可能性が否定できない。
③ 犯罪被害者の支援は、死刑制度とは別個に論じられるべき。
④ 死刑の犯罪抑止効果の有無についての科学的証明がない。
⑤ 死刑確定から執行までに時間がかかる上に、絞首刑は恐怖と苦しみを与える執行方法である。
⑥ 死刑制度の実態についての情報公開が不十分。世論調査については、それが真に民意を反映するものと理解してよいかに疑問がある。
これらの観点から、報告書は法改正に直結する具体的な結論の提案につながるよう、早急に公的な会議体を設置して、制度の在り方を検討するべきだと提言している。
井田教授は、「次の世代に自信を持って手渡していけるのはどういう刑事裁判制度なのかを、真剣に検討する必要があるのではないかと思います」と話した。
命を守るための法律
イタリアを拠点とする国際NGO団体、聖エジディオ共同体の創立メンバーで元イタリア国会議員、ジャーナリストとしても活動するマリオ・マラッツィーティーさんが、イタリアを含む世界の死刑廃止の歴史を紹介し、自身の考えを話した。同共同体は1968年にローマで創立されたキリスト教共同体で、貧しい人々への奉仕や平和実現のための活動をしている。
マラッツィーティーさんは、カトリック教会は20世紀までは死刑制度を支持していたが、20世紀後半以降の教皇たちは拒否を表明し、教皇フランシスコは完全に否定していることを紹介。「命を守ることが法律の本質です。死刑はこれを破壊するものです」と語った。そして司法制度は人間が作ったものである以上、制度が完璧であることは不可能、との考えも示した。
会場から「日本の現行の教育制度の問題は」と問われると、マラッツィーティーさんは「日本国民のほとんどが、(死刑制度についての)正確な情報や、世界の実情を知りません」と答え、十分な議論のためには、国民にできるだけ多くの情報を伝えることが重要だと話した。
