2021年3月、名古屋出入国在留管理局(以下・名古屋入管)の収容施設で死亡したスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさん(33)の生前の様子が映った入管個室内でのビデオ映像を巡り、名古屋入管は、遺族の開示請求を退け、今年3月26日付で「一切開示しない(全面不開示)」との決定通知を遺族に送付した。
これに対し、ウィシュマさんの遺族と遺族代理人弁護団は4月3日、参議院議員会館で記者会見を開き、名古屋入管の「全面不開示」の決定についての取り消しを求めて5月にも東京地方裁判所に提訴すると発表。
ウィシュマさんは名古屋入管の収容施設で栄養失調と脱水症により体調を崩していたにもかかわらず、点滴も外部病院での入院も認められず、収容からわずか半年余りで死亡した。遺族は名古屋入管がさまざまな「義務違反」によってウィシュマさんに必要な医療を提供しなかったとして、国家賠償請求訴訟を3年前に起こした。
遺族は当初から名古屋入管で何が起きたのか、その事実が分かる有力な証拠としてウィシュマさんの個室にあった監視カメラに収録されている約295時間のビデオ映像の開示を求めてきた。しかし、名古屋入管はその2%未満に過ぎないわずか5時間分のビデオ映像しか公開していない。
ウィシュマさんの遺族代理人弁護団の指宿(いぶすき)昭一弁護士によれば、名古屋入管側はビデオ映像の「全面不開示」の理由として、①ビデオに映るウィシュマさん以外の名古屋入管職員等の個人情報が守れないこと、②名古屋入管内の様子が映っているため「公共の安全と秩序の維持に支障をおよぼすおそれがある」ことなどを挙げているという。
しかし、既に裁判資料として開示されている5時間分のビデオ映像は名古屋入管職員等の顔にマスキング(ぼかし)処理が施されており、残りの290時間の映像も同様に個人情報を守る処理を行えばよいだけである、と弁護団は指摘。
さらに5時間分の映像が開示された後も、名古屋入管の安全と秩序は守られているということも併せて言及した。
同弁護団の駒井知会(ちえ)弁護士はこう話す。
「ウィシュマさん死亡事件について法務省がまとめた最終報告書(2021年8月)と5時間分の映像をすり合わせても、表現が違っていたり、報告書に書かれていないことがあったりします。事実を明らかにするためには、295時間全部の映像の開示が不可欠なのです」
記者会見に出席したウィシュマさんの妹、ワヨミさんとポールニマさんは今回の「全面不開示」の決定に深い憤りと共に驚きと悲しみの入り混じった感情を抑えつつ、ビデオ映像は(加害者側である)名古屋入管の占有物ではないことを強調した。そして、「遺族には事実を知る権利がある」と強く訴えていた。
