カトリックの視点から香港社会における教会の現状と今後の課題を学ぶセミナーが3月19日、東京・千代田区の麴町教会・ヨセフホールで開かれた。同教会とイエズス会社会司牧センターが主催し、約40人が参加した。講師を務めたのは、金城学院大学准教授で宗教主事の松谷曄介(ようすけ)さん。松谷さんは中国の近現代史やキリスト教史を研究している。
松谷さんによれば、1997年に英国から中国に返還された香港の人口は約740万人(2024年)、うちカトリック信者は約39万人だ。「一国二制度」により、香港は中国大陸の宗教行政に組み込まれることはなく、キリスト教主義学校の設立や宣教師による宣教活動が法律で認められている。
中国返還後の香港社会に目を向けると、2014年に普通選挙を求める運動(雨傘運動)、19年には逃亡犯条例の改正に対する市民の反対運動があった。20年に香港国家安全維持法が可決・施行されると、香港の自治は大きく制限された。民主化運動の参加者支援に関わったとして22年、ジョセフ・ゼン・ゼーキウン(陳日君)枢機卿が同法違反容疑で一時逮捕されている。
中国全体では近年、カトリック、プロテスタント共にキリスト教徒が急増している。その理由は、急激な社会変化による不安、共産主義への失望など諸説あるが、中国政府は危機感を持っているという。
香港社会と教会の変化
松谷さんが近年、研究で香港を訪れた際に感じたのは、社会に愛国主義教育が強まっていること、海外に移住する人が激増する一方で、中国大陸からの移住者が流入していることだ。キリスト教会ではミサや礼拝の説教や祈りの際、政治的・社会的な言葉に注意が必要になっているほか、人口流出による信徒や聖職者の減少や、愛国主義教育などの影響で「キリスト教の中国化」運動の兆しが表れる、などの変化が見られると説明した。
松谷さんは難しい状況にある香港の教会を、せめて祈りで支えてほしい、と前置きして香港のカトリック教会の状況を次のように話した。
カトリックの香港天主教・正義和平委員会は、21年まで天安門事件を追悼するミサを行っていたが22年以降は中止されている。最後の追悼ミサの前日には、各教会に脅しの言葉が書かれた垂れ幕が掲げられる出来事もあった。現在、同委員会は「全人発展委員会」に改称されている。
香港と中国大陸のカトリック教会の関係も難しい状況にある。23年に香港教区司教のチョウ・サウヤン(周守仁)枢機卿が中国天主教愛国会の招待に応じて、北京を訪問している。返還以降初めてとなるこの訪問に、「(周枢機卿が)応じないという選択肢はなかったと思います」と松谷さんは話した。周枢機卿は対話や協力できることをしながら、香港が中国に完全に取り込まれないようにバランスを取る、という難しいかじ取りをせざるを得ない状況にある。
長年バチカンと中国政府の間に対立があった司教の任命については、交渉が続けられた結果、18年に「司教任命をめぐる暫定合意書」が結ばれた。松谷さんは、同合意書の内容が非公開であることや、中国政府が承認した司教をバチカンが追認することへの批判的見方があると説明。一方で「中国のカトリック教会の正常化に向けた最初の重要な一歩」だと肯定的に受け止める見方もあると話した。
