「戦争と人権」 元イスラエル軍兵士が語る

「どうして戦争をしてはいけないのか」という根本的な問いへの答えを、元イスラエル空軍兵士のダニー・ネフセタイさん(67)に聞く講演会が東京・千代田区の麴町(こうじまち)教会・ヨセフホールで開かれた。同教会の信徒グループ「メルキゼデクの会」が主催し、60人余りが参加した。ダニーさんは現在、日本で木工作家として活躍する傍ら、平和活動家として全国で講演を行っている。

 日本での気付き

 1957年生まれのダニーさんは、3歳の時からイスラエル空軍のパイロットになることが夢だった。戦闘機のパイロットは、イスラエルの少年たちの憧れの職業だ。ダニーさんは18歳でイスラエル空軍に入隊。戦闘機での厳しい訓練を受けたが、最終的な試験に合格できず、パイロットにはなれなかった。
 旅行で79年に来日後、ダニーさんは「戦闘機の目的とは何か」を真剣に考えるようになる。行きついたのは、自分があれほど憧れた戦闘機は「複雑な機械だが『人を殺す』ことと『物を破壊する』ことだけしかできない」という答え。パイロットになる夢が破れた時、ダニーさんは涙を流したが、この答えのおかげで、実際の戦争で人を殺さずに済んだ自分は「相当ラッキーだった」と感じたという。
 またこんなこともあった。東京の代々木公園に行った時のこと。公園内にはさまざまな国の出身者のキッチンカーが並んでいたが、その中にシリア人がいた。
 「びっくりしました。なぜかというと(イスラエルで受けた教育のせいで)私は3歳からこの人たちを敵だとしか思っていませんでした」。ダニーさんは、実際に会ったことも、見たこともなかったのに、シリア人をずっと敵だと認識して生きてきたことに気付く。恐る恐る近づいて声をかけてみると「シリア人は私と同じ『人間』だって、ようやく初めて気が付いた」。「敵という概念は(人間の)DNA(遺伝子)に含まれてないし、生まれつきのものでも何でもない」ことを、ダニーさんは日本で悟ったのだ。

 歴史教育や環境問題から考える戦争

 ダニーさんは「私たちは学校で歴史を学ぶが、歴史に学ばない」とも感じている。
「学校の先生は戦争について話すとき、何人殺されたか、いつ始まったかを話しますが、次の戦争を避ける方法を教えません。例えば高校2年生ぐらいで1年間、世界史の勉強をしないで、戦争を避ける方法を勉強すれば、おそらく10年間で世界中の戦争がなくなると私は思います」
 また、戦争が地球環境に与える影響についてもこう話した。
 「戦車の燃費は最低、最悪です。燃料1リットルで300メートルしか進まない。排気ガスを出してどんどん地球温暖化を進めます。つまりこの機械は町を破壊しながら、地球環境も破壊しています。F35戦闘機は1時間飛ぶとジェット燃料を5600リットル使います」
 このまま地球温暖化による気温上昇が進めば、人間は戦争はおろか、屋外で仕事をすることが不可能になるとダニーさんは指摘した。

「人権より大切なものはありません。人権を大切にすれば戦争はできません。人権は私たちだけの特権ではなく、(全ての人にとっての)幸せに生きる権利なのです」
 イスラエルのガザ攻撃、ロシアのウクライナ侵攻では、多くの命が奪われている。日本の今年度の防衛予算は8兆円を超え、南西諸島に自衛隊基地が造られている現実がある。
 ダニーさんは「次世代に80年前の(第2次世界大戦時の日本の)ような真っ暗な世の中を与えるのか、希望にあふれるような世の中を与えるのかは、私たち次第です」と語っていた。

参加者からの質問に答えるダニー・ネフセタイ

ダニーさんはSNSでも、日々、平和への思いを伝えている。

https://www.instagram.com/dani_nehushtai/

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