オリエンス宗教研究所(所長=オノレ・カブンディ神父/淳心会)は今年の5月から7カ月にわたり、「霊における会話」を行う際に必要なファシリテーター(進行・促進役)を養成するセミナー(協力・東京教区)を東京・世田谷区の松原教会で行った。
セミナーは全7回。講師は、世界代表司教会議(シノドス)第16回通常総会に参加し、霊における会話を行った菊地功枢機卿(東京教区/ビデオメッセージによる講話)と奉献生活者で宣教者の西村桃子さん(セルヴィ・エヴァンジェリー)ら7人が務めた。
全国から信徒、修道者約60人が参加した。講話を聞き、小グループごとに霊における会話の方法で分かち合いを行いながら、霊的な会話を進行・促進する方法を学んだ。
日本の司教団は、シノドスを受けて、霊における会話を日本の教会でも普及させることを決めた。現在は、2028年の教会会議も視野に、教区ごとに普及の取り組みを進めている。
このセミナーで出会った主催側と参加者は、それぞれ何を得たのだろうか。参加したきっかけ、得た学びや今の思いについて、以下の4人の声を紹介する。
① 霊における会話を普及させるには、分かち合いの要となるファシリテーターの養成が必要だと感じ、このセミナーを企画したオリエンス宗教研究所の鈴木敦詞さん(58/東京・世田谷教会)
②本当に「聖霊の声」を聞くことができるのか疑問を感じ、参加を決めた矢作(やはぎ)久子さん(70/茨城・取手教会)
③以前、黙想会で霊的な会話に可能性を感じた体験から、教会の仲間と共に参加した稲垣浩さん(53/横浜・三浦海岸教会)
④札幌教区において霊における会話の普及に取り組む中でファシリテーターを養成する必要を感じ、まずは自分が養成を受けてみようと参加をした松宮るみ子修道女(73/コングレガシオン・ド・ノートルダム修道会)
① 「教区の理解と有志からの協力を経て、セミナー実現へ」―鈴木敦詞さん
「私は、第16回通常総会が行われた2021年から24年にかけて月刊『福音宣教』(同研究所)でシノドスの特集を組み、はっきり見えたことがありました。その一つが、教会の方向性です。教会は今、霊における会話によって洗礼を受けた人すべてが、神の民としてともに歩むことで宣教するという、教会共同体の本来の姿を取り戻そうとしています」
バチカンはシノドスの中で霊における会話を活性化させるため、事前にファシリテーターを養成した。参加者が円卓を囲んで分かち合った際にも、ファシリテーターが必ず同伴していた。
「それで日本の小教区で霊における会話をしていくために、ファシリテーターの養成が必要だと分かりました。養成は本来、日本の司教団が組織的に行うことかもしれませんが、そうした気付きや問題意識を持つ立場にあったオリエンス(宗教研究所)として、やってみてもいいのではないかと考えたのです」
鈴木さんは東京教区の司祭評議会で企画について説明し、次第に、霊における会話に対して理解も得られるようになった。教区の協力を得て実施することが決まったセミナーには多くの申し込みが殺到し、実質3日間で締め切りにせざるを得なかったという。
セミナーでファシリテーターの手本を示すのは、東京教区で養成を受けたカテキスタのうち、松原教会で活動してきた「チーム松原」のメンバーを中心に務めることになった。同教区のカテキスタの一人である鈴木さんは、自身がカテキスタとして派遣されていた松原教会で「チーム松原」のメンバーと共に霊における会話を担当していた。
そこでチーム松原は事前に、シノドス参加者の一人で、司教協議会「シノドス特別チーム」メンバーでもある西村さんからファシリテーターとしての養成を受けた。その後、都内の小教区が霊における会話を体験する機会を設けた際にファシリテーターとして奉仕。イエズス会社会司牧センターが主催していた「シノダる」の参加メンバーの協力も得て、ファシリテーターを10人ほどそろえてセミナー開催にこぎつけた。
セミナーを終え、いま思うファシリテーターの最も重要な役割とは、「定められた分かち合いの時間を守ること」。参加者の発言が所定の時間を超えた時、「祈りの雰囲気を損ねないよう、また主導権を握らないように、その場をどう導くか。そのためには経験が必要」と鈴木さんは言う。
毎回、同じメンバーで霊における会話を行ったことによって、参加者の間に「本当の友情」が芽生えているのを感じたと鈴木さんは語り、このつながりの今後に期待を寄せていた。

宣教修道女会)から「シノドスとは何だったのか、
何なのか、何のためか」について講話を聞き、
霊における会話を行う参加者たち(6月21日)
② 「相手の中のイエスに信頼して、聞いた」―矢作久子さん
参加のきっかけは、ミサで使う「聖書と典礼」(オリエンス宗教研究所発行)でこのセミナーの案内を見たことだった。
「霊における会話は、『聖霊に聞く』ことで進められると聞いていましたが、『そんなことが本当にできるのか?』と、私はすごく疑問でした。自分の中で、聖霊というものが分かりにくくて、ヒントを頂きたいという気持ちもありました」
矢作さんは当初、自分にファシリテーターが務まるとは思っていなかった。それでも沈黙し、祈りながらファシリテーターとして参加者の声に耳を傾けるうちに、自分の中の何かが「解きほぐされていく感じ」があったとこう振り返る。
「聖霊という言葉は使わずに話していても、個人の中に〝感じるもの〟があり、それが(分かち合いをしている)グループの中にも働くということなのでしょう。(セミナー3回目の時、)講師だった小西広志神父様(フランシスコ会/日本司教協議会シノドス特別チーム)から、『洗礼を受けた私たちには、既に信仰のセンスが与えられている』のだと聞きました。それは『あなたに福音宣教を託している』という、私の中のイエスからのメッセージ。そのイエスに信頼しないと、分かち合い自体、成り立っていかないのですね。相手の中のイエスの存在に信頼し、聞き合うという体験から、そのことに気付きました」
霊における会話の中で、「(この場には)温かい雰囲気がある」と話した人がいた。その温かさの中で皆が笑顔になり、互いに心に湧く喜びを共有する場も生まれた。
「私には、そうした体験の場を広げる力はありません。それでも、いつくしみ、あわれみ、ゆるし合うことを大切にする共同体になっていくのが教会の課題かなという思いがあります。それで(セミナーで出会った)講師の方に(私の所属)教会に講師として来ていただけるよう、(主催者に)取り次いでいただきました。オノレ神父様には、(小教区での)黙想指導について予定をご相談したところです」

指導してきた山内保憲神父(イエズス会)が、
「一般社会で『霊における会話』をどう活かすか」をテーマに
講話を行った(11月15日)
③「沈黙のうちに相手の話を聞くのは、良いものと感じた」―稲垣浩さん
以前参加した黙想会で、霊における会話と同様のプロセスを踏んで祈り、「いいものだな」と感じたことがあった。
「参加者一人一人に、発言のための時間と機会が公平に与えられていました。落ち着いて相手の話を聞くという、自分の日常から抜け落ちていたことに気付きました」
セミナーでは、毎回講話を聞き、ファシリテーターの同伴を受けながら霊における会話を行った。3回目以降、参加者自身がファシリテーターの役割を実践しながらスキルを学び始めた。
「やってみると、なんとなくできるものだなと感じました。ファシリテーターは一参加者として発言してもいいし、発言しなくてもいいと事前に説明を受けていましたが、皆さん、分かち合いをしたくなるようで、一参加者としても発言していましたね」
稲垣さんは、所属する小教区の代表として、横浜教区・神奈川第4地区の福音宣教に携わる部門で活動している。セミナーにもこの部門の仲間と4人で参加した。
「学びを生かすため、まずは来年1月に行われる部門の集まりで、霊における会話を自分たちでやってみようと思っています」

の講話「霊における会話の実践と宣教における信徒の役割」の後、
霊における会話を行う参加者たち(12月6日)
④「ファシリテーターの働きから、教会の方向性を再確認」―松宮るみ子修道女
松宮修道女は、札幌教区のシノドスチーム7人のうちの1人として、霊における会話の普及を進めている。教区内各地の小教区からの要請に応じ、霊における会話について説明したり、体験の場を提供したりしてきた。
札幌教区では司祭が減り、近隣の三つの小教区を1単位として互いに交流し支え合う態勢づくりに取り掛かっている。
「待っていられないくらい、複数の小教区が一致していくことが急がれています。そうした中、霊における会話は従来のような議論ではなく、祈りと沈黙を大切にして共に歩む教会をつくっていくための方法論として有効」だと松宮修道女は言う。
「従来であれば、何かを話し合った場で、司祭が最後に一言話して全体をまとめていましたが、それに代わり、信徒が自分たち教会共同体の方向性を見つけていくために、霊における会話は有効だと感じました」
ファシリテーターには、分かち合いの中で見過ごされていた声について、「こういう声がありましたね」と参加者に思い起こさせる役割もある。それは全ての人が参加する共同体づくりに奉仕することであり、目立つ声や、人間の思惑・エゴに基づくのではなく、神の望みを識別して共同体をつくっていくことにつながっている。ファシリテーターの養成を目的にした分かち合いの場で、そうした重要な働きについても再確認することができたと松宮修道女は言う。
「セミナーではまた、講話を通して信仰が励まされました。霊における会話を普及しようとする時、そこに迷いがあっては進みませんから。教会は、霊における会話をきっかけにこれまであまり目を向けようとしなかった霊の働きを意識し、そこから変わっていけるのではないかと感じています」
全7回のセミナーの概要は、オリエンス宗教研究所のウェブサイトで紹介されている。

(写真右)は「日常の会話の中でも霊が(私たちの)心に触れ、
神へと導いてくださる」と語り、参加者全員に派遣の祝福をした
