アジア司教協議会連盟(FABC/会長=フィリップ・ネリ・フェラオ枢機卿)の広報担当司教会議(FABC広報局主催)が12月10日から12日まで、香港の聖フランシスコ大学を会場に開催された。
今年のテーマは、「アジアにおけるAI(人工知能)と司牧上の課題」。11の国・地域から集った司教と司祭ら30人余りが基調講演に学び、祈りと識別、対話を重ねた。
最終日に声明文を採択し、AIは教会が取り組むべき「新たな司牧領域」であることを再確認した。

AIは人間関係の代わりにはならない
会議は、香港教区のステファン・チュー枢機卿主司式によるミサで開会した。AIの専門家、バチカンやアジア地域におけるカトリック広報の関係者により複数の基調講演が行われた。
香港の情報技術(IT)の専門家であるビクター・ラム博士は、「AIとその人類への影響」をテーマに基調講演を行った。ラム博士はAIを使うことのできる若者と使えない高齢者の間に生じる情報格差や、精神的な分断、孤立の問題にも言及。AIは人間関係を築くことに貢献できるが、人間関係にとって代わられることがあってはならないと強調した。
バチカン広報省長官のパオロ・ルッフィーニ氏は、「AIと教会」と題して基調講演を行った。
ルッフィーニ氏は、AIがもたらす誤った情報や、AIアルゴリズム(膨大なデータを処理して有益な情報を抽出するための一連の指示や手順)の影響を警告した。その上で、キリスト者が人間の尊厳や真実に基づいてAIを活用していくことの重要性を訴えた。
パネルディスカッションは、「アジアの教会における司牧のツールとしてのAI」をテーマに行われた。「AIと倫理:カトリックメディアの視点」「青少年の信仰形成のためのAI」などについて発表が行われた。
参加者は小グループに分かれ、「霊における会話」の手法で分かち合いを行った。
変革を受け入れる
会議2日目、バチカン広報局の神学・司牧ディレクター、ナターシャ・ゴベカル博士が「福音宣教と司牧におけるAI活用の指針」をテーマに基調講演を行い、AIと精神的な関わりについて話した。

ゴべカル博士は、カトリック教会の教えや信仰を探求するために開発された「Magisterium AI(マギステリウムAI)」を取り上げた。
これは膨大な教会の文書データに基づいて、教義、歴史、聖書に関する質問に答えたり、神学的な内容を解説したりするAIツールだ。複雑な教義を平易な言葉で説明したり、文書の要約、歴史的背景の提供、祈りの提案などを行ったりする。
ゴべカル博士は、このAIツールが自らについて次のような「重要な注意点」を挙げていることを紹介した。
「(これは)強力なツールですが、その目的は理解を助けることであり、信仰の本質的な人間的要素に取って代わることではありません。常に秘跡への参加、教会の生活への参加、有能な個人(司祭、霊的指導者、教師)との相談、そしてカテキズムや聖書などの一次資料の直接的な読書を優先してください。Magisterium AIは、カトリックの生活と学習のこれらの重要な側面を補完するものであり、置き換えるものではありません」
ゴべカル博士は、これらは重要な指摘であり、利用者に「繰り返し想起されるべき」内容だと話す。
また、AIについて恐怖心を抱いている人は多いが、「恐れは、信仰生活や、将来の道を選ぶ上で良いものではありませんね」と博士は語り、「私たちは(時代の)変革を受け入れ、挑戦に立ち向かわなければ」と参加者を励ました。

ゲームの開発を行った中国出身の大学院生ジョン・パン・リンタオさん(AI研究者・開発者)は、「教会メディアのための情報検証とファクトチェック」と題して発表した。
パンさんは、誤った情報が氾濫するこの世界で「真理に奉仕する」には「信仰とテクノロジーの融合が不可欠」だと指摘する。カトリック教会としてアプリケーションを開発する必要があるのではないかと問題提起した。
参加した11カ国と1組織の代表者から広報活動の状況や、AI活用の状況、課題について報告された。

メディア「ラジオベリタスアジア」(RVA)も報告を行った。
今年11月、マレーシアで「アジア宣教大会」を取材した
スタッフが夜間、編集作業に追われる姿がモニタに映し
出されると、会議の参加者から称賛の拍手が送られた
AIは「教会の使命を強化」する手段になり得る
12日、FABC広報局議長マルセリーノ・アントニオ・М・マラリット・ジュニア司教主司式により閉会ミサがささげられ、ミサ中に人工知能とアジアにおける牧会的課題に関する声明文が採択された。
声明文は、AIが「知恵と警戒と希望を要する新たな司牧領域」だと述べる。「人間の創造性の現れである人工知能」には、可能性と危険性の両面があると指摘する。教会はAIを拒絶したり恐れたりせず、人間関係に根差した慎重さと受肉的ビジョンをもって関わろうとすると述べている。
教会はまた、AIを人間の尊厳と交わりに奉仕すべき道具と捉え、恐れや拒絶ではなく識別と責任ある活用を呼びかける。AIは福音宣教や教育に資する一方、真理の歪曲(わいきょく)や擬似的関係性の危険も伴う。教会は神の交わりである受肉的・関係的な人間観に立ち、形成、監督、地域協働を通して「人間の監督と司牧的責任を特徴とするデジタル福音宣教を推進する」ことなどを提案している。AIは「教会の使命を強化」し、「人間的・霊的成長を促進する手段となり得る」と述べている。

新しい視点やアイデアを得る機会
日本の代表として参加した酒井俊弘補佐司教(大阪高松教区)は3日間の会議を終えて、こう話した。
「広報担当司教会議は、年に1度担当者同士が交流して新しい視点やアイデアを得ることができる機会です。今回はバチカン広報局からも2人が出席したことで、世界とのつながりも感じることができました。『AIと司牧』に関しては、宣教のために正しく技術を使っていくという点で、司牧の現場で研修を行う必要性を感じました」
来年の会議は、教区設立450年を迎えるマカオで催される。

1864年にイタリア人宣教師が到着し、75年までに全員が
カトリックの洗礼を受けた村イム・ティン・ツァイを訪れた。
写真は、村の聖堂でベトナムの司教(写真右)や会議の
スタッフから聖年の巡礼スタンプ帳にスタンプを
押してもらう酒井俊弘補佐司教(写真左)
