神学生たちが学ぶ東京・練馬区の日本カトリック神学院で11月24日、「ザビエル祭2025」が開かれた。駐日教皇庁大使のフランシスコ・エスカランテ・モリーナ大司教司式によるミサを皮切りに、イエスのカリタス修道女会のコンサート、神学院の養成者である谷脇誠一郎神父(長崎教区)の講演会、神学生の企画や展示、小教区やカトリック書店などの物品・軽食販売などが行われた。シグニスジャパン(カトリックメディア協議会/土屋至会長)による映画上映会もあった。初めての試みで、ビング・クロスビー主演のアメリカ映画『我が道を往く』(1944年)が上映された。
司祭、修道者、信徒や近隣の人ら900人余りが来場し、普段なかなか足を踏み入れる機会のない神学院で、交わりの時間を楽しんだ。

「信仰せんば」を乗り越える
エスカランテ大司教はミサの説教で、神学生たちにこう呼びかけた。
「聖書に深く親しむよう努めてください。神の言葉は、魂を養う霊的な糧だからです」。そして、心を清らかに保つこと、誠実であること、祈りの中で神の声を聴き、導かれることを学ぶようにとも話した。
ミサの終わりにエスカランテ大司教は、会衆に向かって、教会共同体全体で神学生の召命に責任を持ち、祈るように促した。そして神学院長はじめ養成者たちに感謝の思いを伝えた。
今年の春から養成者として神学院に赴任した谷脇神父は、出身地である長崎の教会の特徴と、自身の召命について講演した。
谷脇神父がこの春まで主任司祭を務めたのは、伊王島にある馬込教会。島の人口の半分以上が信者だという。馬込集落はほぼ100%が信者で、「長崎の田舎では信者が固まって住んでいます。宗教ごとにすみ分けをしてきた歴史があります」
谷脇神父は、佐世保市の大崎地区・大崎教会の出身。漁業が盛んで、馬込と同じように信者の多い集落だ。「大崎のマリア様」と言われていた大叔母「キリばあちゃん」は「今日は漁に行くな。教会に行きなさい」と、仕事よりも教会を優先するよう声掛けをする、明るくて笑顔が印象的な人物だった。「葬式には大崎集落の人口よりも多い1000人が集まりました」。大叔母のような「名物おばあちゃん」や「名物おじいちゃん」がいるのも長崎の教会の特徴だと谷脇神父は話した。
「長崎の人はよく『信仰せんば(しなければいけない)』と言います。『信仰』を動詞のように使う、長崎の信仰を表す言葉です」
谷脇神父は召命の道のりで、時に耳に痛い、この言葉に悩んだ経験を話した。
信者が多い環境で育った谷脇神父は、自然な流れで、12歳で小神学校に入学。しかし、成長とともにいろいろな価値観に触れて悩み、22歳の時に神学校を休学することになった。
休学してすぐ、世話になっていた福岡教区の司祭に電話をすると「1回教会に遊びに来んね」とミサに誘われる。ミサの終わりにその司祭は、信者たちに谷脇神父を紹介し、休学することを伝えるとこう問いかけた。
「谷脇神学生は毎週来て、教会学校を手伝ってくれますよね?」
谷脇神父は思わず「はい」と答えてしまい、教会学校を任された。2年間毎週教会に通い、子どもたちと一緒に遊んだが「(教会は)こんなに楽しかったのかと思いました」。
谷脇神父はその司祭が働く姿にも心を動かされ、「やはり神父になってもいいかな」と感じて復学。負担に感じていた「信仰せんば」を超えることができた経験だったという。「召命や信仰は私がしたいからこうなるということではなくて、自分の思っていない方向に行くんだと、素直に受け入れたときに、自分の存在が肯定されていくのだと思いました」
来場者・神学生それぞれの思い
吉原祐則(ひろのり)さん(27/長崎教区・福江教会)は、当日のミサで手話の奉仕をした。ミサの意味をより分かりやすく伝えるように心がけているという。「手話がちゃんと通じたか分からなかった時、(ミサの)最後に(ろう者の信徒が)『ありがとう』とか『お疲れ様』って手話で言ってくれたのがうれしくて。それが頭から離れなくて」普段から、心の中で手話を練習して忘れないようにしている。
酒井紀美恵さん(45)は子どもの友人家族と一緒に来場した。カトリックの洗礼は受けていないが、神学院の近所に住み始めた13年前からほぼ毎年来ている。「のんびりできました。(自然豊かな)この景色に癒やされます」
神奈川県の逗子教会からはマイクロバスで信徒ら24人が来場した。豚汁のブースも出し150食を販売した。
娘の千栞(ちおり)さん(7)と一緒に参加した同教会の松原睦(むつみ)さん(41)は、教会以外の場所で神学生たちと過ごしてみて「もっと応援しないといけないと思いました」。
同教会の教会学校リーダーの平野奈緒子さん(52)は、「今年は教会学校の遠足も兼ねて来ました」。「すがすがしい空気を吸って、神学生の皆さんが神様に召されていることも感じました。また来年来たいです」と話した。
映画を見たルパス・マリアさん(47/横浜教区・秦野教会)は、「初めて見て、ストーリーも深いし、歌が素敵でした! 最も心に残ったのは、善いことをすると、コミュニティーが豊かになるということです。話がどうなるか(先が読めず)分かりませんでしたが、面白かったです」と感想を話した。
山田将太郎神学生(40/神学科2年・京都教区)は、展示を担当。「たくさんの人に来ていただいて、(準備は)大変でしたが楽しかったです」
実行委員長の近藤真理生神学生(40/神学科3年・名古屋教区)は、次のように感想を話した。
「神学生が少ない中どこまで広報と準備ができるか、また3連休の最終日に当たりどれだけの方が来られるか、全てが未知でした。開催中にトラブルもありましたが、どなたもケガや体調を崩されることなく終えることが出来て安心しています。エスカランテ大司教、来場された方々、神学生、養成者、スタッフ、外部から手伝って下さった方々、そして、すべてを整えてくださった神様に感謝します」



