カトリック中央協議会の「カリタスジャパン緊急対応支援チーム」(以下・CJ-ERST/シージェイ・イーアールエスティ―)は9月26日、京都教区本部事務局(京都市)で災害対応ワークショップを開催した。
テーマは、「南海トラフ地震が起きた場合の教区の初動対応」。京都教区の大塚喜直司教、教区本部事務局職員、そして小教区の担当司祭や信徒ら20人と、カリタスジャパンの職員やCJ-ERSTを含め、26人が参加した。
グループごとの作業では、京都など外国人旅行者の多い観光地、災害をあまり体験していない地域など、各地域の特性を見ながら発災直後に行うべき事について意見交換し、課題を確認した。
「小さな(福音の)証しをしたい」
ワークショップ前半は、導入と学びの部。カリタスジャパン秘書の橋本晶子修道女(援助修道会)は、あいさつとして、日本の教会の被災体験からCJ-ERSTが生まれたことを次のように紹介した。
橋本修道女は、東日本大震災(2011年)の発災直後から仙台教区の復興支援に携わった。そこで気付いたのは、「災害のただ中に教会があった」ことだという。

橋本修道女によれば、被災した教会は「被災したまま、自然に教会外(地域)の復興支援に携わることになった」。そこで教会は、「教会のもろさ、弱さ」も体験してきたという。
信者、司祭、修道者が高齢化し、減少していく今、「教会共同体であること」とは、力強い働きによって社会に存在感を示すような〝大きなこと〟ではないかもしれないと思えた。そうした体験の中で、「小さな(福音の)証しをしたい」「助け合いの中に存在したい」という願いもまた生まれたのだという。
やがて同じ願いを持つ震災対応の経験者が有志として集まり、思いを語り合う中で、CJ-ERSTは「少しずつ育ってきました」と橋本修道女は話した。
日本の司教団は2022年、カトリック中央協議会に復興支援室を常設し、東日本大震災の時に震災対応を経験したメンバー7人からなるERST(当時)を設置。ERSTはこれまで、同年7月の秋田豪雨災害と、24年1月の能登半島地震の際、各被災教区の司教から支援要請を受けて被災地へ派遣された。
今年4月、ERSTはカリタスジャパンの下に置かれ、名称もCJ-ERSTに変更した。現在のメンバーは、司祭1人を含む6人となっている。
橋本修道女はあいさつの最後に、CJ-ERSTとは「被災教区の司教様方が震災対応を考えるための識別を助け」、「震災対応を行う被災教区の負担を軽減する」ためのサポートチームだと説明していた。
他教区から上がった質問も紹介
ワークショップでは学びとして、南海トラフ地震の被害を想定したビデオを視聴した。

CJ-ERSTからは、実際に災害が起こった場合に教区が行うことになる2点、教会関係の被災状況の確認と、地域の復興支援への対応について紹介。
カリタスジャパンは、被災地を支援しようとする信者にも直接関わる事柄として、「被災教区が集める募金」と「カリタスジャパンが集める募金」の違いなどについて解説した。
また、過去に他教区で行ったワークショップで「(災害時の)CJ-ERSTの活動費はどこが負担するのか」という質問が上がったことを紹介し、その活動費を負担するのは被災教区ではなく、派遣元のカトリック中央協議会になると説明した。
教区を越えた連携も必要
ワークショップの後半は、グループに分かれて作業を行った。参加者は、①京都市内②滋賀、奈良、京都南部③京都教区本部事務局と三重県、外国ルーツのコミュニティー――の3グループに分かれ、それぞれ発災直後の初動対応について意見交換した。出た意見は付箋に書き出し、可視化した。
特に外国人旅行者の多い①③のグループでは、災害時の外国人への対応が話題になった。日本にいる外国人には、旅行者のほか、定住者、技能実習生などの短期滞在者もおり、対応方法が違ってくることについても考えた。

全体会では、各グループが意見交換のまとめを発表した。
グループ①京都市内では、「日頃から教会メンバーで食事を作って一緒に食べることが、災害時の炊き出しの準備になる」「(災害発生時に向けて)普段、教会内で互いに接する機会の少ないベトナム人と日本人高齢者の関わりを考えたい」など、日頃の活動や問題意識を踏まえた意見が上がった。

グループ②滋賀、奈良、京都南部は、「災害が比較的少なく、災害対応が他人事になりがち」な地域という認識から、防災意識を高めることや、信者同士のつながりをつくることの必要性を確認。「南海トラフ地震が起きた場合、被害が少ないと思われる奈良県の教会に避難することが考えられるのでは」との声もあった。
また、教区本部事務局のほか、南海トラフ地震の際に甚大な被害が予想される三重県、そして外国ルーツのコミュニティー――の担当者が集まったグループ③では、外国人の災害時の避難場、誘導、コミュニティーへの連絡方法、各国語での対応を考えていく必要を確認した。
グループ③ではまた、災害時に連携すべき組織として、教区本部、中央協、CJ-ERST、大阪高松教会管区の各教区、そして京都教区カテドラル河原町教会(京都市)を挙げた。特に三重県の災害では地理的に近い名古屋との連絡が必要になるため、名古屋教区との関係を密にしておく必要があることも確認した。
各グループの意見交換では、「ミサ中に地震がきたら、逃げていいのか」という素朴な疑問も挙がった。「漠然と思っていることを挙げてみる(他者に思いを伝えてみる)と、分かることがある」など、自由に語り合う中で得た気付きについて分かち合う人もいた。
地域と一致していく

集いの終わりに大塚司教は、このワークショップに協力した会場の全員に感謝を述べた。
大塚司教はまた、地域の町内会と違って「いろいろな地域から越境して人が集まっている教会」は、だからこそ「地域と一致する必要がある」共同体だと強調。社会全体が災害への備えを進めている中で、教会も「できることからやっていきたい」と、今後教区が進めていく災害対応への理解と協力を求めた。
京都府・田辺教会から参加した首藤珠美さん(54)は、「これまで社会福祉協議会(社協)というと、福祉や介護のことでお世話になる組織というイメージでしたが、日本の小教区には(災害時には復興支援活動を行う社協との連携も視野に)普段から地元の社協とつながっておくという考え方があることも知りました。今日学んだことを教会に持ち帰り、皆と話し合いたい」と語っていた。
