2024年1月の能登半島地震で全壊指定を受けた輪島教会(石川県輪島市)は、公費による解体を経て再建され、9月27日に献堂式が行われた。主司式は、名古屋教区の松浦悟郎司教が務めた。
名古屋教区は震災後、輪島教会に隣接する「海の星幼稚園」を通じて地域とつながり、以後1年9カ月にわたって被災者支援を続けてきた。再建された輪島教会には、同教区の復興支援活動を担う「カリタスのとサポートセンター」(センター長・片岡義博神父〈名古屋教区〉)のボランティア拠点(ベース)が併設されている。教区は今後も幼稚園と連携し、“希望のしるし”として地域の人々と共に歩んでいく。
献堂式には教区内外から約80人が参加し、式の模様はライブ配信でも届けられた。会場と配信を合わせ、約280人が共に祈りをささげた。
教会と人々を祝福
輪島教会は、市中心部に近い小高い山の中腹にある。秋晴れに恵まれたこの日、車で分乗して会場に集まった参加者たちは、完成した2階建ての教会を感慨深げに見上げていた。
同教会の信徒の一人は、こう話した。「聖堂は2007年の能登半島地震で一部損壊があったものの以来そのままで、それに加えて昨年の地震被害です。(なくなってしまうと思われた聖堂が再び建つ)こんな日が来るなんて、私には奇跡としか思えません」
献堂式は午前11時、新しい教会建物の前で始まった。
海の星幼稚園の園児たちが、『神様がわかるでしょ』などの賛美歌を元気に合唱した。

元気な歌声から始まった(写真右は、幼稚園の園舎)
続いて松浦司教が教会の扉の前に立ち、「神の聖なる教会において、恵みと平和が皆さんとともに」と、ミサ開祭のあいさつを述べた。松浦司教は施工業者や設計事務所の担当者から教会の鍵や設計書を受け取り、その鍵で扉を開いた。そして奉仕者を先頭に、司教、司祭団、そして参列者の順に教会の中へと入堂した。
水を祝福した後、松浦司教は司祭たちと共に、1階の聖堂や調理場、事務所、トイレを回り、聖水で祝福した。さらに2階のボランティア拠点も巡って聖水を振りかけた。祭壇と、集まった参列者にも聖水が振り注がれた。
共同体をつくっていく
ミサの説教で松浦司教は、24年1月の地震、そして同年9月の大雨による被害をまず振り返り、皆が多くの苦難を経ながらも、このミサで「アレルヤ、アレルヤ」と、大きな声で歌えたことを喜んだ。そして、「祈りと支援を寄せてくれた多くの人と、共に歩み続けてくださった神様」への感謝を述べ、この新聖堂も自分たちが造ったものではなく、与えられたものだと強調した。

名古屋教区は、被災した七尾市(石川県)でも同様に、七尾教会に隣接する聖母幼稚園と連携して支援活動を続けてきた。松浦司教はこの体験から、「教会が幼稚園やカトリック施設と協働していく」ことの大切さに気付いたという。
松浦司教はまた、第一朗読箇所(ネヘミヤ記8・1~4a、5-6、8-10)に触れ、イスラエルの民の神殿建設について語った。彼らは捕囚の地から祖国に戻ると、まず神のことばに基づいて共同体をつくり、「神の家」を築いていった。
一方、輪島教会の共同体の場合、聖堂は壊れて使えなくなったものの、海の星幼稚園の職員に迎えられて園のホールに集い、共同体として強められたという。松浦司教によれば、10年前の同教会のミサ参加者は5人ほどだったが、震災を機に増え、現在はフィリピン出身者を中心に20人ほどが集うようになっている。

地域の人々が復興を果たす前に、新しい輪島教会の聖堂が完成した。松浦司教は、聖年の今年、輪島教会が教区の巡礼教会に指定されていることにも触れ、全ての人に開かれた「希望の場」として新しい輪島教会を使っていきましょうと呼びかけた。
感謝の典礼に入る前に、祭壇と教会堂への塗油・献香、祭壇と教会堂内のろうそくへの点火などを行った。

祭壇にささげる生花は、七尾教会の信徒が奉納した

暗闇の中の道しるべ
閉祭に当たり、カルメル修道会総長代理の今泉健神父と、松浦司教がそれぞれ「御礼のあいさつ」を述べた。
カルメル会は、輪島教会と海の星幼稚園を創設した修道会。今泉神父は、輪島教会が「どこよりも早く再建された」のは、教会関係者のためではないと話した。教会の再建は、教会が苦しみ、悲しむ人々の復興のしるしとなり、「神は愛」であること、そして神が人々を救いに導いていることのしるしとなるためであり、「神様が建て直してくださった」。輪島教会でも始まるのとサポートセンターの活動が、地域に神の愛を運ぶ活動となるよう、できる協力をしたいと述べた。
輪島教会は、「海の星の聖母」にささげられている。今泉神父は、震災で破損した聖母像が修復され、状態の良いステンドグラスと共に、再び聖堂に設置されたことを紹介した。最後に、「暗闇を航行する船の道しるべ」という意味を持つ「海の星」のように、新しい輪島教会が被災した人々の道しるべ、よりどころとなるようにと願った。
松浦司教はこの日、名古屋カテドラル布池教会(名古屋市)での催しに集っている500人以上のフィリピン出身信徒にも献堂式のために祈ってもらっていることを伝え、新たな一歩を踏み出す輪島教会の信徒たちを励ました。

右端は、カリタスのとサポートセンターセンター長の片岡義博神父
「心が(静かに)深められた」
フィリピン出身の横地(よこじ)レヒナさん(44/輪島教会)は被災の体験を振り返り、こう話した。
「地震の間、『神様、助けて!』と叫んでいましたが、やがて『助けて! ゆるしてください!』という叫びに変わりました。私は悪い事ばかりしてきたので、『生きているうちに神様にゆるしていただかないと。今しかない!』と思ったのです。地震の後、長く顔を合わせていなかった仲間と再会すると、私は心の中のわだかまりも捨て、抱き合って無事を喜び合うことができました。新しい教会まで与えられて、感謝の気持ちでいっぱいです」
輪島教会が震災で閉鎖・解体された後、海の星幼稚園の職員は、教会を訪れる巡礼者、司祭、園でのミサに参加するフィリピン出身の信徒など、さまざまな人を迎えてきた。
園長の三笠真由美さんによれば、職員は来訪者の話を聞きながら「心が(静かに)深められて」きた。中には「力をもらいたい」と、ミサに参加する人もいるという。
輪島教会には司祭が常駐していないため、震災前から教会宛ての電話対応や郵便物の処理、教会の鍵の管理も園が担当している。「教会ができて、ますます忙しくなるでしょう。私たち(幼稚園)も一緒に輪島教会を広めていきたい」と三笠さんは話していた。
カリタスのとサポートセンターは、能登半島地震の被災地で支援活動を行うボランティアを募っている。参加予約のフォームはこちら。このフォームには、サポートセンターのウェブサイトからもアクセスできる。
