禁教期(1614~1873年)の長崎と熊本の天草の潜伏キリシタンの信仰や価値を知り、未来につなぐ取り組みについて語る講演会が9月23日、東京・千代田区の上智大学で開かれた。「禁教期のキリシタン研究会」(会長・髙祖敏明神父/イエズス会)と上智大学キリシタン文庫(所長・川村信三神父/同会)が主催し、300人ほどが参加した。
遺産は生きた記憶
「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」は2018年にユネスコの世界遺産に登録された。高祖神父は開会のあいさつで、同遺産は登録の過程でバチカンから強い推薦を受けていたこと、昨年11月にバチカンを訪問し、前教皇フランシスコに支援への感謝を伝えたことを説明した。
高祖神父と共にバチカンを訪れたレンゾ・デ・ルカ神父(日本二十六聖人記念館館長/イエズス会)は、会場に録画を提供した。前教皇フランシスコは、日本のカトリック信者にとってはこれらの遺産が生きた記憶であると同時に、信仰を持っていることによって、現在迫害されている世界の人々の支えとなるように、と伝えたのだと言う。
テレビ局での番組制作の経験を持ち、テレビをはじめとするメディアを研究している田淵俊彦さん(桜美林大学教授)は潜伏キリシタンの遺産を後世に伝える取り組みとして、絹に墨で書かれたオラショ(隠れキリシタンの祈り)を読み解き、映像で伝える「絹のオラショ」を制作したことを紹介した。
潜伏キリシタンを先祖に持つ柿森和年さん(阿古木隠れキリシタンの里代表)は、出身地である長崎県・五島の奈留(なる)島で、巡礼道や巡礼宿の整備を進めていることを説明。田淵さんの映像化の取り組みにも協力している柿森さんは、今後、死ぬ間際に唱える「最後のオラショ」、クリスマスに当たる「お大夜(たいや)」の復元も実現したいと語った。
元文化庁調査官で文化財や都市、景観の保全を研究している下間(しもつま)久美子さん(国学院大学教授)は、久賀(ひさか)島と奈留島の隠れキリシタンゆかりの集落が、文化庁の「文化的景観」に認定されるためには、当時の人々がどのように宗教を守り伝えてきたのかと合わせて、どのように暮らしていたのかも知る必要があるのではないかと述べた。
講演会に参加した外前田(ほかまえだ)知絵さん(57/東京・高幡教会)は長崎出身。「母方の祖母が隠れキリシタンの末裔(まつえい)なので、ルーツを知りたいと思って参加しました」
知絵さんに誘われて参加した息子の輝直(なお)さん(18)は、文化人類学に興味があると言い「(下間さんの話を聞いて)潜伏キリシタンはクリスチャンにとって重要な文化、歴史だと捉えられています。(その当時の人間が隠していた信仰を掘り起こすだけでなく、日々の)暮らしなどの部分も分析する意味があると聞いて、研究分野として面白いと思いました」
上智大学大学院でキリシタン史を研究している松井咲環(さわ)さん(22/麴町教会)は、「(禁教期に)一度途切れてしまった日本のカトリック史の中でも、ある種形を変えて潜伏キリシタン(の信仰)が何百年も続いているのは興味深いと感じました。(キリシタン史の中でも)『聖人崇敬』を研究していますが、(これからは)潜伏キリシタンにも目を向けたいと思いました」と話した。
