米日の学生 「霊における会話」で平和実現の思い分かち合う

 カトリック巡礼団として広島・長崎を訪問した米国の学生と、日本のカトリックとプロテスタントの大学の学生たち33人は8月8日、長崎市の純心中学・高等学校の江角記念館で「霊における会話」の手法を用いて、核兵器や平和への思いを分かち合った。
 六つのグループそれぞれに1人ずつ大学教員がファシリテーター(進行役)として付き、「個人的な経験の分かち合い」「他者の分かち合いで聞いたことを心に響かせる」「自由な会話」の順に互いに意見や気持ちを述べ、耳を傾けた。この作業を2回繰り返した後、9日の平和祈願ミサの共同祈願と、10日の「ともにあゆむ平和の巡礼者の集い」で発表する「共同声明」にまとめ上げた。

学生たちはスマートフォンの翻訳アプリを駆使。真剣な対話は3時間にも及んだ
 霊が導いた対話

 米国・マルケット大学4年生で歴史を学んでいるブレナン・ウィルズさんは、「核兵器の歴史や被爆者の悩み、悲しみを知りたくて勇気を持って」今回の巡礼に参加。実際に被爆者の話を聞き、原爆資料館を訪ねてみて「非軍事的な場所を爆撃することを正当化する理由はない、ということを再認識しました」。そして日本の学生との対話を通じて「核兵器が(被爆した)当時の人たちだけでなく、次世代にまで影響を及ぼすことを学びました」と話した。
 長崎純心大学2年生で外国語を学んでいる川原宗一郎さんは、「自分の英語を試すというだけでなく、長崎に住んでいる人間として歴史や平和を共有するいい機会だと思って」参加。この日の午前中は、米国の学生たちと一緒に原爆資料館を訪ねた。被害を受けた浦上天主堂の模型を見て、感情が込み上げている米国の学生の姿を目にしたという。「戦争への思いは国を超えて同じだと思いました」
 川原さんは対話を通じ「原爆はアメリカが投下したものですが、アメリカの人たちが(被爆国である)日本の立場になって実際に被害を見てどう思ったのか、正直に感想を聞くことができたのは新鮮でした」と感想を述べた。
 この日の対話を主催した長崎純心大学の学長でファシリテーターも務めた坂本久美子修道女(57/純心聖母会)は、信徒でない学生もいる中、「(最初は)『霊における会話』がどの程度学生やスタッフに理解されて、識別のプロセスに行けるか心配でした。でも『大丈夫、聖霊が導いてくれるから』とピーター(・ジョーンズ/ロヨラ大学司牧学部学部長)に言われたことを信じて」事前準備を進めた。
 実際にやってみると、洗礼を受けているかどうかや国籍に関係なく、対話によってグループの総意ができていった。そして「ゆるし」「尊敬」「過去を忘れない」「希望を持つ」「祈り」「愛」といった共通のキーワードが浮き出てきたことに驚いたという。 
 「やっぱり霊が導いてくれました。(霊における会話は)カトリック教会だけの”お家芸”ではなく、対話をするときは自分の意見をはっきり言い、相手の意見を受け入れること。学生たちは平和はこうやってできていくんだなと感じたのではないでしょうか」と坂本修道女は振り返った。

浦上教会での「ともに歩む平和の巡礼者の集い」で
発表する井野理彩(りさ)さん(左)
 これからも続く対話

 米国巡礼団の一人、州立ニューメキシコ大学を卒業し、修士課程に進学する予定の咲知(さち)・バーナビーさん(22)が今回の巡礼で一番印象に残ったことは、学生同士の対話を経験したことだったという。「日本人の学生とは、教育についてたくさん話しました。アメリカの学生と同じように、日本の学生も結構戦争のことを知らないことに気が付きました」
 帰国したら、同級生と教員と一緒に平和についての記事を書くつもりだと話し、これからも日本の学生と接点を持って対話を続けていきたいとも語った。
 上智大学神学部神学科4年生の井野理彩(りさ)さんは、知り合いの司祭に勧められて広島から巡礼に参加。「参加するまでは平和や核兵器について考える機会はありませんでした。参加してみて、平和構築の難しさを感じましたが、それよりもみんなが集まって平和について考えることがすごく重要で、未来に対しての希望なのではないかと感じました」
 井野さんはこの経験を通じて、自分も選挙で投票するだけでなく、より具体的な行動を起こしていきたいと思うようになった、とも話した。

 日米の学生がつくり上げた共同祈願と共同声明は、以下のとおり。

〈共同祈願〉
・主よ80年前、想像を絶する悲しみと苦しみに包まれたこの場所で、一人一人の賜物(たまもの)の交換を通して私たちは小さな希望の種を育ててきました。この平和が私たちの心の中で大きく育ち、私たちがあなたの平和のうちに憩う日が来るまで、あなたの愛を証しすることができますように。
・主よ、私たちの心から痛みと憎しみの針を取り除くことができるよう助けてください。私たちはそれぞれの違いを通して共に成長し、過去を振り返ることができる共同体を築きながら、ゆるし、尊敬し、愛することができますように。

〈共同声明〉
・主よ、私たちが謙虚な平和の使者となることによって暴力に打ち勝つための力を身に付けることができますように。また、静寂の中でうめく声に耳を傾け、広島と長崎の方々の苦しみを忘れることなく、その記憶を心に留め続けていることができますように。
・私たちは今日、ここに集まった私たちみんなと世界中の全ての人のために、核兵器のもたらす破壊の犠牲者としての記憶と証言を互いに分かち合います。私たちがこうした罪が二度と繰り返されることのない世界を思い描き、その実現に向けて取り組み、互いへの無条件の愛と全ての生命を守るという決意を新たにすることができますように。

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