諸宗教者が共に「世界平和 祈りの集い」 比叡山(ひえいざん)宗教サミット38周年

 仏教、キリスト教、イスラム、神道など、多様な宗教の指導者らが共に平和を祈る「比叡山宗教サミット38周年『世界平和祈りの集い』」が8月4日、比叡山(ひえいざん/大津市)で行われ、約450人が参加した。
 祈りに先立って行われた式典では、昨年ノーベル平和賞を受賞した日本原水爆被害者団体協議会(被団協)の代表委員、田中熙巳(てるみ)さん(93)を招き、講演を聞いた。

 「核兵器で国は守れない」 被団協の田中さんが講演

 田中さんは、被団協がこれまで何度もノーベル平和賞候補に挙がりながら、昨年になって受賞した理由について、近年、核兵器を使った戦争が起こる危険を多くの人が感じているからだと語った。

講演する田中熙巳(てるみ)さん

 被爆者は、核兵器を「使ってはいけない、持ってもいけない、造ってもいけない」と叫び続けてきたと田中さんは言う。しかし日本政府は、2017年に国連で「核兵器禁止条約」が採択されたにもかかわらずこれを批准せず、米国の〝核の傘〟を頼みにしている。田中さんは「私どもは核兵器で国の安全を保つことは絶対にできないと確信しています」と訴えた。
 田中さんは13歳の時に長崎で被爆した。原爆がさく裂すると、爆風によって一瞬で家屋が倒壊。そこに熱線で火が付き、屋外にいた人々も大やけどを負う様を目の当たりにした。「何百人、何千人もの人が焼き殺された現実があるわけです。広島では原爆が投下された日、市を挙げて中学生5千~6千人が野外で作業をしていました。その子たちはほとんど亡くなってしまった。そのこと一つを取っても核兵器は絶対に使ってはいけないものだ、と私は言い続けております」
 核兵器を地上からなくすためには、「既に使われた2発の核兵器の結果を、人間らしい心で受け止めてもらうほかはありません」と田中さんは指摘し、「一人一人がどういう形で亡くなっていったのか。目撃したり体験したりした人たちが事実を伝えること、それが最大にして唯一の方法だろうと思います」と述べた。
 また今後、核戦争を防ぐためには、若い人々の理解と努力が必要だと田中さんは話した。そのために大切なのは「幼い時から人を愛し、平和を愛する心を育てていくことではないか」と問いかけ、特に人の心の安寧を願い育む宗教者の働きに期待を寄せた。

 諸宗教対話省長官のメッセージ 教皇庁大使が代読

講演の後、会場を屋外の広場に移して祈りの集いが行われた。諸宗教の代表者と参加者全員が起立し、「平和の鐘」が突かれる音を聞きながら、世界平和を願って黙とうをささげた。
比叡山サミットは1986年、当時の教皇ヨハネ・パウロ2世の呼びかけで世界の宗教指導者がイタリアのアッシジに集まり、世界平和を祈ったことに始まる。そこに参加した当時の山田惠諦(えたい)天台座主(ざす)が集いの継承を提言し、翌年の87年以来毎年、比叡山で続けられてきた。
今回、カトリックからは駐日教皇庁大使フランシスコ・エスカランテ・モリーナ大司教と大塚喜直司教(京都教区)が参加。教皇庁大使が、教皇庁諸宗教対話省長官ジョージ・ジェイコブ・クーバカド枢機卿からのメッセージを代読した。メッセージは、「世界的な社会不安、紛争、分裂、そして生態系の危機に見舞われる昨今」、「アッシジの精神」は極めて重要だと強調した。
 田中さんの講演を含む「平和の式典」と、「平和の祈り」の動画は「比叡山宗教サミット」のウェブサイトで視聴できる。
(写真提供=天台宗)

「平和の鐘」の音を聞きながら黙とうをささげる諸宗教の代表者たち。左から2人目が大塚喜直司教(京都教区)。5人目が駐日教皇庁大使フランシスコ・エスカランテ・モリーナ大司教
  • URLをコピーしました!
目次