広島・長崎へ 祈りの平和行進 日本山(にっぽんざん)妙法寺が出発式

 憲法9条の保持、核兵器廃絶を求める行動など、平和のためのさまざまな取り組みでカトリック教会とも協働してきた日本山(にっぽんざん)妙法寺(事務局・東京都渋谷区)は7月12日、都立 第五福竜丸展示館(東京都江東区)で、被爆地広島、長崎へと向かう「2025年平和行進 東京・岡山~広島・長崎」の出発式を行った。式には平和行進を行う日本山妙法寺の僧侶5人のほか、物心両面で行進を支える首都圏在住の信者らも合わせて約30人が参加した。「核なき世界」の実現に向けて一歩一歩、歩みを進めながらささげ続ける祈りが「一般の人の心に響く」祈りとなることを祈願し、出発した。

 教会も宿泊所の提供で協力

 この平和行進は1958年、東京から徒歩で行進し、広島で平和祈念を行う形で始まった。以来、目的地に長崎を加えたり、僧侶の高齢化に伴って移動に公共交通機関を利用したりするようになるなど変化もしながら、67年続いてきた。カトリック教会も小教区単位や信者個人でこの行進に協力し、今年も岡山県の玉島教会、広島県の福山、三原教会の3教会が行進参加者に宿泊所を提供する。日本山妙法寺の江上彰(あきら)上人(しょうにん)は、「(平和行進に)個人的に参加・協力してくださる(信徒の)方もいますし、滞在した教会の聖堂で私たち(僧侶)が信者さん方と聖歌を歌う姿を見て、驚く方もいらっしゃいますよ」と言う。
 行進ではまた、通行する地域の市役所や区役所、公民館なども訪問する。そのため関係施設に事前に「自治体要請書」を送付し、その年の祈りの意向に合わせた具体的な「対応」を求めている。戦後80年の今年は、イランとイスラエルの戦争をはじめ、ロシア・ウクライナ戦争、イスラエル・パレスチナにおける戦争など全ての戦争終結のために日本政府に停戦の働きかけなどを要請する内容だった。
 出発式のあいさつで日本山妙法寺の代表・木津博充(きづひろみつ)首座(しゅざ)は、日本山妙法寺の武田隆雄上人が7月3日付で発表した、石破茂内閣総理大臣宛ての要請書を読み上げた。
 この要請書は、米トランプ大統領が6月25日、イランの核施設の空爆を広島と長崎への原爆投下になぞらえ、両者は「本質的に同じもの」であり「(原爆投下が)戦争を終結させた」と、原爆投下を正当化する発言を批難したもの。石破首相に対し、「被ばく者の実相を軽視する」トランプ大統領の発言に抗議し、謝罪・撤回を求めるよう要請するとともに、核兵器の不使用を米政府に働きかける「明確なメッセージ」を出し、「核なき世界」の実現に向けた外交に尽力すべきだと述べている。

第五福竜丸の船体(写真左)の脇で出発式を行う日本山妙法寺の僧侶と信者たち

 出発式会場に展示されている第五福竜丸は、1954年3月1日、米国が太平洋のマーシャル諸島ビキニ環礁(かんしょう)で行った水爆実験により被ばくした静岡県焼津(やいづ)港の遠洋マグロ漁船だ。実験から生じた放射性降下物「死の灰」により、全乗組員23人が被ばくした。
 この第五福竜丸のほか、マーシャル諸島島民や周辺海域で操業していた漁船の船員らが被ばくした「ビキニ事件」を契機として、日本全国で原水爆の実験や使用に反対する運動が広がり、世界的な原水爆禁止運動も始まった。そうした中で56年に創立されたのが、被ばく者の立場から核兵器廃絶を訴え続け、2024年にノーベル平和賞を受賞した日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)だ。
 被ばくした第五福竜丸は船体の放射線量が十分に減衰した後、1976年から同展示館で展示されている。
 展示館学芸員の市田(いちだ)真理さんも出発式に参加し、「ビキニ、広島・長崎」での原爆使用は、「現在の私たちのいのちに直結している(問題)と感じる日々」だと述べ、平和行進の参加者に激励の言葉を贈った。

 誰でも、一部だけでも参加できる

 出発式後は、東京での平和行進を実施。黄色い袈裟(けさ)を来た僧侶と共に信者らも会場から約3キロの東陽町公園(江東区)まで約1時間、各自手にした「うちわ太鼓」を打ちたたきながら「南無妙法蓮華経」のお題目を唱えて行進した。
 連日、最高気温35度に達する猛暑日だったが、この日は幸い曇り空だった。数えで90歳となる木津首座は、行進を終えると空を仰いで、「この天気がありがたいですね。汗で濡れた袈裟を通る風も涼しく、いい風だった!」と破顔一笑。
 武田上人は7月20日に投開票日を迎える参院選に向け、「投票前にさまざまな情報が飛び交っていますが、地に足の着いた投票行動をしなくてはなりませんね。何といっても平和と人権が一番(大切)ですからね」と話していた。
 平和行進は、誰でも、飛び入りでも参加が可能で、一部区間のみの参加も歓迎だという。岡山・広島での行進の日程はこちらで、広島・長崎での平和祈念の日程はこちらで確認できる。

「うちわ太鼓」をたたきながら平和行進を行う日本山妙法寺の僧侶と信徒ら(東京・江東区)
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