日本カトリック教育学会・全国大会が、8月30日から9月1日にかけてオンラインで開かれた。今年は大会事務局を務めたノートルダム清心女子大学(岡山市/設立母体・ナミュール・ノートルダム修道女会)での対面開催が予定されていたが、台風10号の影響によりオンライン開催となった。
カトリック教育の研究者やカトリック学校の教職員ら約100人が参加し、誰一人取り残さない「インクルーシブ社会」の実現を目指したカトリック教育の在り方や、実際の取り組みなどについて、研究発表や意見交換が行われた。
人間の創造を体験する授業
初日の事例発表では、聖霊中学校・高等学校(愛知県瀬戸市/運営母体・南山学園)で宗教科を担当している瀬尾さとみ教諭が、旧約聖書における「人間の創造」(創世記2・7)を体験する高校1年生の授業を紹介。
生徒たちは聖書を読んだ後、グループごとにキネティックサンド(室内用の砂)で思い思いに「人」を創造する。「アダムをつくって、あばら骨からエバをつくろう」と言うグループもあれば、アダムとエバの子どもをつくるグループもあるという。
高校3年生になった時に、もう一度受けてみたい授業はあるかと質問すると、必ずトップ3に入るこの「人間の創造」。瀬尾教諭は「土で作ることの印象深さと、手で触る土の感覚は、何か人としての感覚を呼び起こす力があるのではないか」と感じていると話した。
この他にも、カトリック学校の地域との交わり、カトリック教育における天職と霊性、教育現場での「霊における会話」(現在、シノドス〈世界代表司教会議〉で重視されている共同識別の方法)の実践についての発表があった。
みんなで取り組むカトリック教育
2日目は、片柳弘史神父(イエズス会)がマザー・テレサ(コルカタの聖テレサ)の愛の実践と霊性について基調講演を行った。片柳神父はマザー・テレサの霊性の土台には、文化や国籍や宗教の違いや貧富の差にかかわらず「全ての被造物の内に神を見る」ということがあったと説明。
マザーは、貧しい人々の中にいるイエスの思いに応えたいと考えるのであれば、まずその人自身が神と内的交わりを持つことが必要だと強調していたことを話した。
午後からは、研究者たちが日ごろの研究成果を発表。同時に、今年度から学会内で立ち上げられた「プラクシス部門」では、「みんなで取り組むカトリック教育」をテーマに、学校現場の声を分かち合う取り組みも行われた。
プラクシス部門のメンバーからは、2023年に実施した「カトリック学校教育実態調査」の学校種ごとの中間報告があった。
報告の中で、幼稚園・保育所(園)卒園後も、子どもたちの心のよりどころとして園や教会とつながる仕組みの必要性や、司祭・修道者や信徒だけでなく、教職員全員で建学の精神の継承とカトリック教育に取り組むことの重要性などが指摘された。
学校現場の実践報告もあった。報告者の一人、森本浩美教諭は賢明学院小学校(大阪府堺市/設立母体・聖母奉献修道会)の道徳科主任を務めている。同校では宗教科と道徳科が「二人三脚」でカリキュラムを組んでいるという。
例えば宗教科では「神に愛されている私」や「自分と同じように神に愛されている友達」について学び、学級担任が担当する道徳では「自分の良いところ」や「友達の良いところ」について学ぶ。このような授業を通じて、児童たちの自己肯定感が高まり、自分とは異なる同級生への理解も進んだ。教員たちも宗教科と連携して道徳の授業をつくることで、宗教教育への関心が深まる結果になった、と森本教諭は話した。
徹底した個への関心
最終日には、ノートルダム清心学園の教員・卒業生ら3人が登壇し、インクルーシブ社会を築くための実践についてのシンポジウムが行われた。
ノートルダム清心女子大学インクルーシブ教育センターの青山新吾准教授は、同大学では、特別な支援が必要な学生たちを教職員がチームで支えていることや、学内のバリアフリー化を進めてきた経緯などを説明。学生たちに、徹底した「個」への関心を持って、相手の言動の背景要因を知ることの大切さを伝えていると話した。
大会委員長で同大学の山根道公教授は、閉会のあいさつで「この大会が、カトリック教育の中で『種』のように発芽していくような学びの時になったことを願っている」と参加者たちに感謝の気持ちを伝えた。