授業で生徒たちが手作りした英語の絵本を、カンボジア中央部の貧しい農村地域にある小学校に届けている高校が神戸市にある。愛徳学園高等学校(設立母体・愛徳カルメル修道会)が2022年に始めた「ブックプロジェクト」は今年で3年目を迎えた。先月、愛徳学園高校の教員3人が現地のプロン小学校を訪れ、今年3月に卒業した生徒たちの手作り絵本7冊を子どもたちに手渡した。現地を訪問した松浦直樹校長(58)、佐々木敬子教頭(59)、同校生徒らから、同プロジェクトについての話を聞いた。
ブックプロジェクトは、各校が独自に設定できる学校設定科目の「グローバル・スタディーズ」で同校の3年生が取り組む活動の一つ。学年のほとんどの生徒が履修するという本授業は、英語力の向上を目指すだけでなく、英語以外の教科担当者とも連携し、地球上で起こっている課題、正義や平和について考える、教科横断・探究型の授業だ。「全ての人、特に弱い立場にある人に寄り添い、共に生きるグローバル社会に貢献する人材の育成」を目標にしている。
カンボジアとの出合い
プロジェクトが始まったきっかけは、佐々木教頭と荒谷すみれ教諭(ともに英語科)が2019年、将来的に生徒をスタディーツアー(現地学習)に連れていく可能性を探るため、カンボジアに視察に行ったことだった。
教頭たちはこの視察で、カンボジアでは学校教育が行き届いておらず、特に貧しい農村地域では女性と子どもが厳しい状況に置かれていることを知った。
親たち自身も十分な教育を受けられず、子どもを学校に通わせるよりも、農作業の手伝いをさせることを優先する傾向がある。大人たちが農作物を町に売りに行って、収入を得るためだ。
もう一つのきっかけは、佐々木教頭が21、22年の2年間、日本の公益財団法人の支援の下、日本とカンボジアの教員協働による「グローバル教育プログラム」構築に関わったこと。
他校やカンボジア人教員を含む教員チームで、それぞれの学校現場での課題を分かち合いながら、英語を使った互いに学びがある授業がつくれないかを話し合った。
そこに参加していたプロン小学校の教員が「カンボジアの小学校でも週に1度英語の授業があるが、良い教材も図書室もない」と話した。それを受けて、グループで考え出したのが「日本の生徒が英語で絵本を作り、カンボジアの職業訓練校の学生が現地のクメール語で翻訳を付け、プロン小学校に贈る」活動の流れだった。これを愛徳学園では「ブックプロジェクト」として、22年から「グローバル・スタディーズ」で取り組むことになった。
絵本ができるまで
生徒たちは初めに、プロン小学校の状況やカンボジアの歴史を学ぶ。受け取る相手のことを思いながら絵本の構想を膨らませるため、オンラインで現地の人に、よくある「(人の)名前」や「食べ物」、「スポーツ」といった生活 や文化などについて質問する機会も設けている。
3人グループで話を書き、文章を英語に翻訳し、絵を描いてまとめ上げたものをデータ化。プリントアウトしたページを市販の絵本作成キットに一枚一枚張り付けて、1冊の絵本が完成する。
卒業しても育つ学びの種
佐々木教頭はこの2年半の取り組みを通じ、初めはやや受け身の生徒もいるが、カンボジアの子どもたちの現状を知り、学びが進むにつれて、「相手の立場に立って考えられる」ように変わっていくのを感じたという。加えてグループ作業の中で、生徒たちは自分の役割、貢献できるポイントに気が付くとも感じている。
夏休み明け最初の授業では佐々木教頭が、写真や動画を交えながら、プロン小学校がどのような所にあるのか、児童らの様子やカンボジアの公教育が抱える課題、ブックプロジェクトが果たす役割などを生徒たちに話した。
松浦校長はプロン小学校を訪問した時、子どもたちが一斉に集まって額を突き合わせ、大きな声で絵本を読み始めたと振り返る。ブックプロジェクトは、カトリック精神に基づいて愛徳学園で日々行われている「種まき」の一つだと話す松浦校長。
「(良い)種をまけばきっと(生徒たちがそれぞれに気付きを得て)次の新しい活動につながる」と信じ、同校での学びの種が卒業後も育っていくことに期待を寄せている。
生徒たちの声
9月5日の3時間目、生徒たちに①佐々木教頭の話や写真・動画からの気付き②今作っている絵本の内容③ブックプロジェクト全体を通じて学んだこと、をオンラインで聞いた。
①については多くの生徒が、自分たちとプロン小学校の子どもたちの教育環境の格差を実感したと答えた。「日本よりもプロン小学校の子どもの方が学ぶ意欲がある」、「カンボジアを訪問した先生たちが、先輩方の活動をつないでくださっている」と感じた生徒もいた。
②は友情や旅、民族衣装をテーマにした話、日本の昔話に着想を得た話、日本文化や関西の都市を紹介する話などさまざま。共通していたのは絵本を受け取る相手のことを考え、喜んでもらえるような工夫を第一に作業を進めていることだった。
③では、自分たちには当然のように学ぶ機会がある。そのことへの気付きと感謝、絵本がプロン小学校の子どもたちの学びの助けになることへの期待と喜びが挙がった。また文化の違いを知ることができたなどの声もあった。