移住労働者の子どもや国際結婚で生まれた子ども、また難民の子どもたちなど、いわゆる「外国につながる子ども」たちの学校教育を考えるシリーズ。?回目の今回は、公立小学校・中学校・高等学校における教員の「国籍条項」について取り上げる。日本の教員免許を持ち、地方自治体の教員採用試験に合格し、公立の学校に務めている外国籍教員は全国に600人ほどいる。しかし、横浜市などは教員採用試験に合格しても、外国籍教員は、正規雇用の「教諭」ではなく、「期限を附さない非常勤講師」としている。また、管理職の補佐等をする「教務主任」や「学年主任」などの「法令主任」にはなれない。こうした問題を取材した。
日本の教員免許を持った人は、地方自治体の教員採用試験に合格すれば、「教諭」(正規雇用教員)になれるはずである。しかし、日本の大半の自治体では外国籍者は、日本人と全く同じ教員免許を持ち、全く同じ教員採用試験に合格しても「教諭」にはなれない。外国籍教員に与えられる資格は、雇用期間が制限されていない「常勤講師」なのだ。
つまり、どんなに経験や実力があり、児童・生徒に信頼される教員であったとしても、外国籍教員は「教務主任」や「学年主任」にはなれないということだ。
リーダーシップ取れない
そもそも外国籍者が「教諭」になれないなどという「国籍条項」が書かれた法律は存在しない。それにもかかわらず、国籍差別が存在していることが問題の本質だ。教員採用は地方自治体に任されているため、どの自治体でも外国籍者を「教諭」として雇用することができるはずである。しかし現状はかなり異なっている。
公立学校における外国籍教員差別に関する「総務省・文科省・外務省交渉」が今年8月23日、衆議院第二議員会館で開催された。そこに出席した外国籍教員の一人、在日コリアン(日本の朝鮮植民地支配で渡日した人々/以下「在日」)3世の李智子さんは2005年に横浜市の教員採用試験に合格し、06年に採用されて18年になるベテラン教師だ。
李さんはこう訴える。
「私は定時制高校3年生の担任です。私たちの学校は経済的にすごく厳しい環境にある生徒が多く、全体の85%くらいが高等学校等就学支援金制度を受けています。また私のクラスには、特別なサポートが必要な生徒が数人いて、その教育支援も必要です。今は就職活動の最中で、夏休みも返上して生徒に向き合っています。またこれからは進学指導もあります。奨学金の担当もしているので、日本人教員と同じように仕事をし、勤務時間外も働いているのです」
それにもかかわらず、「外国籍」という理由だけで「常勤講師」という制限を設けられてしまい、リーダーシップを取ることができない。さらに日本人教諭と同じ仕事量でも「外国籍常勤講師」の場合は校長・副校長などに昇格できないため、横浜市教育委員会試算によると生涯賃金において1800万円もの格差が生じてしまうのだ。
「困っている生徒たちを見ると何とかしてやりたいと私は常に思っています。学校側に、もうちょっとここを変えたらいいのではないかとか、このようにやってみようじゃないですかと働きかけたいのですが、やはり私は常勤講師なので、意欲はあっても『学年主任』でも『教務主任』でもないのでモチベーション(やる気)を保つのが難しいのです」
このようにほとんどの自治体において、経験豊かな外国籍教員を「教務主任」や「学年主任」にしたいと思っても、国籍が壁となって適任者が主任になれないなどのケースが多く見られる。
日本人教員の中には「日本人でさえも『主任』には簡単になれない」と昇格の困難さを挙げて、あたかも差別はないのだと主張する者もいる。しかし、この問題の本質は、多くの地方自治体において外国籍教員には、「教諭」になるという選択肢や、「教務主任」や「学年主任」等になるという「選択肢」がないことなのだ。
全く異なる自治体の対応
東京都の場合は、そもそも「常勤講師」という職位自体がないため、外国籍者も「教諭」として採用されている。「在日」の金竜太郎さんは、板橋区立中学校の主任教諭で、進路指導主任も務めている。
「東京都の場合は、主任・主幹も外国籍教員はなれます。川崎市(神奈川)もさいたま市(埼玉県)も外国籍者を教諭として採用しています。私は昇進試験を受けて主任教諭になりました」
一方で、横浜市や神戸市(兵庫県)など多くの地方自治体では外国籍者は「常勤講師」として採用されている。
「自治体によってこれだけ対応が違うわけです。ただはっきりと言えることは、私のように外国籍教員が主任になって学校運営を行っても、これまで何の問題も起きていないということです」
外務公務員法(1952年)には「国籍条項」が設けられているため、外務省や大使館等に務める「外務公務員」には日本国籍が必要だ。しかし、国家公務員法(47年)と地方公務員法(51年)に「国籍条項」はない。
政府は1953年、国家公務員について「公権力の行使又は国家意思の形成への参画にたずさわる公務員となるためには日本国籍を必要とする」、だが「それ以外の公務員となるためには日本国籍を必要としない」と解釈した。
ところが80年代になると、法的根拠がないまま「公権力の行使又は国家意思の形成への参画にたずさわる公務員」が「教諭」にまで拡大解釈されるようになり、今日に至っている。
こうした差別対応について国連人種差別撤廃委員会は2018年9月、「日本審査総括所見」で改善するように勧告している。
日本では現在、教員不足が深刻な問題な上に、「外国につながる児童・生徒」も増え続けている。外国籍教員の協力なしには教育現場が成り立たない状況にまで来ている中で、教育現場こそ率先して外国人差別をなくしていく必要があることをあらためて指摘しておきたい。